研究課題/領域番号 |
17K13177
|
研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
宮田 紘平 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 特任研究員 (30792171)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 運動同調 / 表情模倣 |
研究実績の概要 |
個人間の運動同調が、他者との視覚・聴覚的相互作用により非意図的に生じる。顔表情のように運動に感情が付加されている場合には、運動の同調を介して感情の同調が生じる。本研究全体の目的は、個人間の運動そして感情の同調現象の機序を神経科学的に解明することである。そこでまず本研究では、運動の同調および感情の同調に関与する神経基盤を二個体モデルで明らかにする。そのために、脳波図(EEG)と機能的磁気共鳴画像(fMRI)を二個体同時計測(Hyperscanning EEG-fMRI)し、個人内のみならず個人間の側面から神経活動の時間的特性と空間的特性を解析する。 感情の共有は他者との精神的繋がりを強める上で重要である。非言語的な感情の共有は、感情が付加された運動協調の一つである表情模倣を介して行うことができる。本研究では、表情の被模倣と模倣に関わる神経基盤を調べた。16ペアの参加者は2台のMRI装置にそれぞれ入り、映像システムを通して、笑顔、かなしい顔の表情模倣課題を行った。各課題後には、ポジティブとネガティブを両端とした7件法で内省報告を行ってもらった。その結果、被模倣は表情の種類に関わらずポジティブな感情を誘引し、内側前頭前野、両側の側頭頭頂接合部や小脳 、右側島皮質など、模倣の際とは異なる領域の活動を示すことを明らかにした。また、模倣された時にポジティブに感じる人ほど吻側前帯状回(rACC)の活動が高いことから、rACCは被模倣によるポジティブ 感情を表象することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳波記録用アンプが故障し、脳波の記録はできなかったものの、高速撮像法を用いて表情模倣課題中の機能的磁気共鳴画像の二個体同時記録を実施した。研究成果について北米神経科学大会にて口頭発表を行い、これまでの研究成果を論文としてまとめており、夏頃には投稿予定である。また、二個体の機能的結合についても解析を進めているところである。脳波と機能的磁気共鳴画像の同時計測については脳波記録用アンプへの負担の少ない撮像条件を調整中であるが、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はMotion同調に関与する神経基盤を明らかにするために、指ふり課題を用いて同調の頻度や位相関係などの同調の質に応じた二個体の神経活動、運動同調を引きおこす背景として行為表象に関わる神経基盤と相手から受ける影響度の関係性について調べる。 運動データとして指関節の角度変位データを用いる。二人の指関節の角度変位データから運動同調の頻度・位相関係といった指標を算出し、二個体神経活動の時空間的パターンや機能的結合との関係性を調べる。二者の位相関係・同調頻度に依存して、相手への好感度が変化することから、位相や同調頻度を表象する二個体の神経活動が存在することが予想される。また、相手から受ける影響の程度は、赤池法による因果解析を用いることにより、Noise contribution ratio (NCR)として二人の運動の時系列データ(指関節の角度変位)から抽出できる。行為表象に関わる領域は、観察と運動両方で活動する領域であり、Localizer課題を取り入れることで該当領域を特定する。そして「観察中の行為表象に関わる神経活動レベルとNCRは相関する」という仮説を検証する。 実験概要として、二人一組の被験者はMRI装置内で右人差し指での指ふり課題を行う。モニターを通してお互いの運動を見ることができ、約20秒間自分の心地よい速さで指をふり続ける。試行の前半はモニター越しに自分の運動を観察し、後半では相手の運動を観察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初年度内に行う予定であった、EEGとfMRI同時計測の実験がEEGアンプの故障によりできなかったため、未使用額が生じた。記録できなかったデータを取得するために追加実験を行う予定であり、未使用額については追加実験に参加する被験者の謝金に充てる予定である。
|