研究課題
本研究の目的は個人間の運動そして感情の同調現象の機序を神経科学的に解明することである。他者との視覚・聴覚的相互作用により個人間の運動同調が生じることが知られている。運動同調は行為の共有であり、行為に伴う意図や感情を共有する点において社会的相互作用に重要である。これまでに運動同調の1つとして、模倣課題を用いて模倣・被模倣に特異的な神経基盤、被模倣に伴う快感情には前部帯状回皮質が関連することを明らかにしてきた。しかし、模倣・被模倣における行為の共有に関連する神経基盤は不明であった。そこで本年度では、模倣による「行為の共有」に関わる神経基盤を明らかにするために、模倣の相互作用中に2者の行動と神経活動に見られる類似性を調べた。磁気共鳴画像装置2台を用いて、表情の模倣をする人と模倣される人の神経活動を同時記録した。16ペアの参加者は2台のMRI装置にそれぞれ入り、映像システムを通して、表情模倣課題を行った。ペア特異的な行動の類似性を評価するためにビデオデータから口角の時系列データを抽出し、大きさ・速さといった顔の動きの類似性について解析を行なった。その結果、顔の動きの大きさ・速さはペア特異的に類似していた。また、右下頭頂回の活動がペア特異的に2者間で同期し、同期が強いペアほど表情を作る動きの速さが類似していることを明らかにした。この結果は、右下頭頂回の活動の同期は自他の行為の共有を反映することを示している。
2: おおむね順調に進展している
運動同調に伴う行動と脳活動の類似性を評価するために、多様な行動の解析が可能である指ふり課題を用いることを予定していたが、顔の特徴点の時系列データの抽出に成功し、顔の動きから2者の運動の関係性を評価することができた。さらに、2者の運動の類似性と脳活動の類似性との関連をデータで示したことは、本研究を進める上で大きな飛躍であったと考えられる。一方で、脳波との同時記録については予定よりも遅れている。この理由は、予定していたMRIの撮像法では脳波アンプへの負担が大きく、また脳波セットアップにかなり時間がかかり被験者への負担が大きいため、実験デザインを組み直す必要があったためである。現在は、脳波単独で記録する実験も視野に予備実験を行っている。以上より、おおむね順調に進展していると考えられる。
これまでの研究で運動の同調(模倣)に関わる右下頭頂小葉(IPL)の活動の同期を明らかにした。先行研究によって、非意図的な運動同調では下前頭回(IFG)と中側頭回(MTG)の経路が重要であることが示唆されており、模倣のような意図的な運動同調ではIPLを介したIFGとMTGの経路が重要であることが示唆されている。今後の研究の方針として、これら3領域の間で、意図的・非意図的な運動同調によって、機能的結合がどのように変容するかを明らかにする。実験概要として、二人一組の被験者はMRI装置内で右人差し指での指ふり課題を行う。モニターを通してお互いの運動を見ることができ、意図的に相手と指の運動の位相を合わせる意図条件と、相手の運動を見ながら自分の心地よい速さで指をふり続ける非意図条件で課題を行う。各条件におけるIFG、IPL、MTGの個体間と個体内での機能的結合を観察する。
当初年度内に行う予定であった、EEGとfMRI同時計測の実験を実施しなかったため、未使用額が生じた。記録できなかったデータを取得するために追加実験を行う予定であり、未使用額については追加実験に参加する被験者の謝金に充てる予定である。
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Neuroscience Letters
巻: 682 ページ: 132~136
https://doi.org/10.1016/j.neulet.2018.07.024