近年、野球競技の現場では、選手の競技パフォーマンスを向上させるために体重を増加させる取り組みが積極的に行われている。しかしながら、この取り組みが体重そのものを増加させることが目的なのか、それとも、筋量の増加を目的としているのかは明らかになっていない。本研究は、打撃動作に着目して、打者の体重増加が競技パフォーマンス(バットのスイング速度)に及ぼす影響を力学的に検討し、増量に関する適切な指針を指導現場に提案することを目的とした。前年度は大学野球選手を対象に約12週間の食事・トレーニング介入による身体組成とスイング速度との変化を調査したが、最終年度は年間を通して大学野球選手の身体組成をモニタリングし、1年間でスイング速度がどれだけ変化したのかを調査した。その結果、1年間で筋力は増加したが、体重、除脂肪量、スイング速度には変化がみられなかった。 本研究全体を通じて、①即時的な増量(打者の体幹に重りを装着した打撃)は通常の打撃よりも身体の回転運動の勢い(角運動量)を増大できるものの、それをバットの伝達することができず、打撃動作の最終的なアウトプットであるスイング速度を低下させてしまう可能性があることが分かった。また、②体重そのものではなく除脂肪量(筋量)を増加させることがスイング速度の向上に寄与すること、③熟練した打者の場合、スイング速度は筋力よりも身体組成の影響が大きいことが明らかとなった。以上のことから、脂肪量ではなく除脂肪量によって体重が増加するように食事やトレーニングを調整することが、野球打者の競技パフォーマンスを向上させるために重要であることが示された。
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