研究課題/領域番号 |
17K13186
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
芝口 翼 金沢大学, 国際基幹教育院, 助教 (40785953)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アイシング / 筋再生 / 線維化 |
研究実績の概要 |
スポーツ現場では、スポーツ外傷の急性期の治療法として従来アイシングが有効であると考えられてきたが、これまでに申請者は、骨格筋の損傷直後にアイシングを行うと、特に筋の質的な再生が妨げられる(線維化の増悪)ことを見出している。しかし、損傷した骨格筋に対するアイシングの生理作用については未だ不明な点が多い。また、疼痛緩和ケアとしてアイシングが有効であることも事実であるが、この利点を生かしつつ前述の欠点を相殺し得る具体的な方策についても未だ確立されていない。そこで本研究では、骨格筋損傷後のアイシングが線維化を増悪するメカニズムについて、線維芽細胞の動態及び線維化を増悪する因子を明らかにするとともに、アイシングの悪影響を相殺し得る新たな介入法を見出すことを目的とした。 平成29年度は、骨格筋損傷後のアイシングがもたらす生理作用を明らかにするため、主に線維芽細胞の動態について検討した。若齢のWistar系雄性ラットを筋損傷群、筋損傷+アイシング群に分け、ヒラメ筋に塩酸ブピバカインを筋注することで薬理学的筋損傷を惹起させた。アイシング処置は筋損傷直後の1回のみ、ラット後肢下腿部にアイスパックを当てて20分間行った。損傷7日後、14日後、28日後にヒラメ筋を摘出し、免疫組織化学的に検討を行った。 筋損傷後のヒラメ筋重量・相対筋重量は損傷7日後をピークに減少し、その後は時間の経過に伴い非損傷筋レベルへ向けて回復したが、現時点でアイシングの影響は認められなかった。一方、線維芽細胞のマーカーであるTcf4陽性核は、損傷7日後をピークにヒラメ筋の間質部で増加し、その後は時間の経過とともに非損傷筋レベルへ向けて減少した。また、損傷7日後のTcf4陽性核の増加は、筋損傷+アイシング群でより顕著な傾向にあった。以上のことから、骨格筋損傷直後の単回のアイシング処置は線維芽細胞の増殖を促す可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は研究代表者の所属部署の異動に伴い、実験スペースの確保・セットアップに想定以上の時間を要したため、実験のスタート時期が遅れてしまった。そのため、当初予定していた損傷7日後以前のタイムポイントの動物実験、血流・筋温の経時測定、及びマイクロアレイ解析が実施できなかった。また、当初購入を予定していた線維芽細胞・線維化の評価に必須な試薬・抗体の一部が販売中止、または一時的な輸入停止となり、代替品の購入と新たな分析プロトコルを構築する必要性が生じたため、その準備と検証に予想外の時間を費やした。よって、研究の推進がやや遅れていると判断している。 しかしながら、安定したデータを取得するための線維芽細胞・線維化の分析方法の確立は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
<骨格筋損傷後のアイシングがもたらす生理作用の検証> 平成30年度は、本年度の研究内容を継続しつつ、生化学的手法、分子生物学的手法、免疫組織化学的手法を用いて筋損傷後のアイシングがもたらすより詳細な線維芽細胞、線維組織、炎症細胞、筋精製細胞、等の変化やこれらに関連する遺伝子・タンパク質の発現動態の変化について検証を進める。また、筋損傷直後からラットの腓腹筋に温度プローブを挿入するとともに、足底にNIRS(近赤外線分光法)またはドップラープローブを装着し、アイシングによって引き起こされるラット後肢下腿部の温度・血流変化の測定を試みる。 <アイシングが線維化を増悪するメカニズムの検証> 本年度、ならびに平成30度中に得られた結果を基に、筋損傷後のアイシングによってもたらされる線維化の増悪が温度変化によるものか、血流変化によるものか、それとも複合的な要因に起因するかについて明らかにする。共同研究者とのディスカッションの中で、アイシングによる低温暴露+血管拡張剤投与などによる血流維持モデルの作成が現時点では再考する必要が出てきたため、カフによる大腿部阻血を用いた虚血-再灌流モデル作成の準備と実施を優先的に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験の一部を本年度中に実施できず、マイクロアレイ解析を次年度に繰り越すこととなったため。 平成30年度は実験動物(ラット)の購入費用に加え、筋サンプルのタンパク質・遺伝子発現解析、免疫組織化学解析に必要な試薬・抗体・プライマー・研究備品の購入に充てる予定である。また、研究成果発表のための旅費及び論文投稿・英文校正費用、筋サンプルのマイクロアレイ解析費用の計上を計画している。
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