研究実績の概要 |
ヒト眼の水晶体は主成分であるα-,β-,γ-クリスタリン(Cry)間の相互作用によって形成された規則的な会合体によってレンズとしての機能を保持している。 白内障は、水晶体中の蛋白質の構造に変化が生じ、秩序構造が乱れ、凝集が進み→異常凝集化→不溶化することに起因する加齢性疾患である。白内障のCry中で は酸化、脱アミド化、異性化及び非酵素的糖化など複数の翻訳後修飾が検出されており、これらが凝集のトリガーと考えられている。本研究では、液体クロマト グラフ質量分析法(LC-MS/MS)により異性化の迅速解析を行った。また、比較的簡便にAsp異性体を決定する方法を見出した。Asp 残基の異性体分析においてはα-Cry中のAsp異性化に関する報告は多いい。他のCryであるβ-Cryに関してはα-Cryに比べ量が少なく分析が混乱であ報告が少ないため、不溶性画分への移行段階である高分子量(HMW)画分中のβ-Cryの正常なnative状態のβ-Cry中のAsp残基の異性化率を比較した結果、全ての年代の加齢性白内障水晶体中のHMW画分にはβ-Cryが存在し、β(βB1)画分中Asp212の異性化が促進していた。しかし、native状態のβ(βB1)画分中Asp212の異性化は見られなかった。また、WS画分に加えWI画分に関しても、 同様な実験を行った結果、Asp残基の異性化はWS画分のCryよりもWI画分のCryに高い割合で進んでおり、Asp残基の異性化と蛋白質の凝集、不溶化との関連が強く考えられた。また、R-HPLC(C4)でHMW画分をα、β画分に分離し同様な分析を行った結果、β画分中のβ(βB1)画分中Asp212の異性化より、α画分中のβ(βB1)画分中Asp212の異性化が促進していた。この結果、β(βB1)画分中Asp212が異性化しαークリスタリンと凝集したと考えられた。
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