研究課題/領域番号 |
17K13221
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 匠 京都大学, 複合原子力科学研究所, 特定准教授 (80379007)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 白内障 / 質量分析 / D-アミノ酸 / クリスタリン / アスパラギン酸 |
研究実績の概要 |
代謝機能の低い加齢組織、構成タンパク質凝集体内には、異性化アスパラギン酸残基(異性化Asp)が蓄積する。これらアスパラギン酸の異性化率は白内障などの加齢性タンパク質異常凝性疾患と相関するが、その定量解析は困難である。逆に、容易な定量解析法を実現できれば、その値を新たな指標とした老化関連疾患の早期予防対策が可能となる。我々は、これまでLC-MS/MSを用いた異性化Asp分析手法を開発し利用してきた。本手法では、異性化Aspの測定に、Selected ion monitoring(SIM)法の原理を用いていた。そのため、選択した分子量を有する物質のみを検出することから高感度である一方、定量性に関してはバックグランドの取り込みによるS/N比の低下などが障害となっていた。そこで、この問題に対し、本年度はMultiple Reaction monitoring(MRM)法をベースとする質量分析装置を用いたAsp異性化率の測定法開発に取り組んだ。MRM手法では綿密な条件決定を必須とするが、複数の条件で物質を検出するため、夾雑成分の多い分析においてバックグラウンドを取り除くことが可能であり定量性に優れる。また、SIM法では分析不可能であった同一分子量かつ、LC上で同一溶出時間を示すペプチド中Asp残基の分析も可能となる。本年度は、実際に複数の条件を最適化、確立した分析条件を用いて、加齢に伴い増加する水晶体構成タンパク質凝集体内αA-クリスタリン中のAsp151異性化率を年代別に定量比較した。加えて、同部位のAspを種々の他アミノ酸に置換したリコンビナントクリスタリンを大腸菌を用いて作製し、野生型との比較から、該当Asp部位(Asp151)がクリスタリン熱安定性や、クリスタリンが有するシャペロン様機能に寄与していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのD/L分析手法を改良し、各年代の加齢性ヒト水晶体へと用いた。現時点までの成果として、βB2-クリスタリン中における部位特異的なAsp異性化と、水晶体タンパク質凝集体内αA-クリスタリン中のAsp58, Asp151における顕著な異性化を見出している。特に、αA-クリスタリン中のAsp151に関してはαA-クリスタリンC末端側領域ループ部分に存在することから、本Asp異性化がクリスタリン分子間の相互作用へと影響を及ぼすことが予想された。したがって、これを証明するべく、Asp151を種々の他アミノ酸を導入したαA-クリスタリンを作成し、生化学的解析へと用いた。その結果、Asp151部位の変化はαA-クリスタリン凝集サイズには影響を及ぼさない一方で、該当部位の荷電状態に変化があった場合、熱安定性や、クリスタリン機能低下を引き起こすことが明らかとなった((Takata T et al. (2019) Exp Eye Res))。このように、加齢性白内障の一因となるタンパク質中アミノ酸分子レベルの変化(Asp異性化)を同定しながら、その影響を徐々に明らかにしつつある。したがって、現段階で本研究は、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
加齢性白内障の原因となる水晶体構成各タンパク質中のアミノ酸化学変化部位の同定は進行している。しかしながら、実際のタンパク質中に、そのような化学変化(例えばAsp異性化)が生じた場合に、生体に及ぼされる影響を証明するためのフィードバック実験は未だ進行していない。したがって、今後はその部分を詰めてゆく。現在、タンパク質と異性化Asp含有ペプチドを発現タンパク質ライゲーション法で連結することで、異性化Asp含有水晶体構成タンパク質を作出中である。本手法を用いて、任意の部位に異性化Aspを導入したタンパク質を作出し、このタンパク質の性質を野生型と比較する事で、実際に水晶体内構成タンパク質中におけるAsp異性化の意義を示す。また、これまでに開発改良を加えてきたLC-MS/MSをベースとした異性化分析手法は、同一質量を有しながらもLC上で分離するピーク数と、酵素処理後の消失ピークから異性化Asp有無を確認するボトムアップ式結合型異性化Asp分析手法であった。本手法にMRM法を採用した場合でも、異性化Asp含有ピーク溶出時間が重複した場合に分析が不可能な点、D-β-Asp由来のペプチドピークの検出が困難な点などの課題は残る。したがって、全種類の異性化Aspを直接、質量分析にて検出定量することのできるトップダウン式の結合型異性化Asp分析手法の開発を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定どうり使用させていただいており、その残額は次年度の消耗品費用として使用させていただく。
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