研究実績の概要 |
アミノ酸は、本来キラル分子でありL-体とD-体の2種類の形態をとる。それにも関わらず、生体を構成する蛋白質中のアミノ酸残基は、L-アミノ酸のみであるという絶対的規則 (生体内ホモキラリティ) があった。しかしながら、蛋白質中に加齢に応じて部位特異的にD-体化しつつ、その過程で生じるβ-型を含む計4種として存在するAsp残基 (L-α-Asp, L-β-Asp, D-α-Asp, D-β-Asp) の存在が明らかとなってきた。 本研究では、蛋白質内部の各Aspに関して、異性化率の年齢依存性を高精度に定量比較するための手法開発に取り組んだ。その結果、MS/MS部位に四重極型質量分析装置を用い、Multiple Reaction Method(MRM法)を採用することで、従来より高精度の定量手法の開発に成功した。 本手法にて、ヒト眼内水晶体を構成するクリスタリン蛋白質中、部位特異的なAsp異性化率の加齢依存性を再評価した。続けて、蛋白質内部Asp残基の異性化形成に影響を及ぼす因子を評価するべく、In vitroで迅速に異性化するAsp残基(Asn残基脱アミド化を経由した)含有モデル蛋白質を作製した。 本手法では最終的な分析に質量分析装置を用いるため、試料の量は極めて少量で済む。加温は一般的なサーマルサイクラーおよびPCR用のチューブを用いており、蒸発を防ぐためのパラフィンオイルと、それを回収するパラフィルムがあれば実験可能であり、技術的な敷居も低い。本年度、質量分析装置部分を交換したが、交換前および交換後でも標的Asp異性化率の変化はなかったことからも本手法の精度かつ正確な定量性が示された。
|