2000年にWHO(世界保健機関)が健康寿命を提唱して以来、平均寿命だけではなく、健康寿命の延伸は、世界的にみても取り組むべき重要な課題となっている。高齢女性では、40代から現れる更年期症状に加えて糖尿病のリスクが増加するが、エストロゲンの低下が大きな影響を与えている。研究代表者は、更年期モデルである卵巣摘出マウスを用いて、エストロゲンが、一酸化窒素合成酵素 (iNOS) の制御を介した血糖上昇抑制作用をもつことを明らかにした。特にiNOS ノックアウト (KO) マウスでは、卵巣摘出マウスで観察される血糖値上昇の増悪が抑制された。 研究実施計画に記したiNOS発現およびiNOSが関与する伝達経路とインスリン抵抗性発現の関連について検討した結果、肝臓において、卵巣摘出群ではAMPK発現が低下していた。また、野生型マウスの卵巣摘出群の筋肉中において、細胞内へグルコースを取り込むトランスポーターであるGLUT4が低下していたが、iNOS KO マウスの卵巣摘出群では増加していたため、エストロゲンはiNOS発現を制御しGLUT4発現を増加させることにより血糖値上昇を抑制している可能性が考えられた。 最終年度においては、野生型の卵巣摘出群で暗期の自発運動量が偽手術群と比較し低下していたことから、自発運動量の低下により血糖値上昇が生じる可能性が考えられた。エストロゲン投与により、卵巣摘出マウスにおける自発運動量低下と血糖値上昇は改善した。しかしながら、iNOS KO マウスでの卵巣摘出群でも同様に自発運動量は低下していたため、エストロゲンのiNOSの制御を介した血糖上昇抑制作用において、自発運動量の変化は直接的には関与していないことが示唆された。卵巣摘出群における血糖値上昇において、エストロゲンはiNOS抑制作用を介した酸化ストレスの抑制により血糖値を制御していることが考えられた。
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