細胞や組織機能に重要な組織特異的な遺伝子発現パターンは老化に伴って変化する。この細胞や組織の「アイデンティティ」はエピゲノム修飾と呼ばれるヒストンやDNA化学的修飾によって構築、維持される。ICE(Inducible Changes in Epigenome)マウスでは15塩基認識エンドヌクレースI-PpoIによってDNA損傷を誘導される。DNA損傷のタイミングと期間を制御するため、エストロジェン受容体の変異タンパク質ERT2を用いている。タモキシフェンによってER融合タンパク質ERTM-I-PpoIの細胞内局在と安定性を制御し、DNA損傷オン・オフ制御がかかるよう設計されており、ICEマウスの成体4-6か月齢においてDNA損傷を3週間だけ誘導されることによって、エピゲノムの変化を介して種々の老化関連表現系を誘導できる。これまで筋組織において筋肉量の低下、ミトコンドリアの機能低下、それに伴うRXR/LXRシグナル経路やAcute phase response signalingなどの炎症関連遺伝子発現変化が捉えられている。またForkhead box protein O1 (FOXO1)やFOXO3、CTCF結合領域で特異的に変化が観察される。FOXO1/3は代謝やストレス応答制御を行う転写因子であり、CTCF(11-zinc finger protein or CCCTC-binding factor)はクロマチン構造を決めるインスレーターとして知られている。本研究によってさらに、H3K4me1やH4K20me1のリボソーム遺伝子やOXPHOS遺伝子、ミオシン遺伝子におけるヒストン修飾がICEマウス筋肉組織において変化しており、LSD1やSETD8といったエピンゲノム因子の関与と筋組織機能制御の可能性が明らかになった。
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