本研究では適度な運動習慣による皮膚バリア機能およびアトピー性皮膚炎(AD)病態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。平成29年度から令和3年度にかけて日常身体活動量とAD病態との関連性を調査し、身体活動量が高いほど血中のAD病態関連因子が低くなることを報告した。令和4年度の研究では、AD患者26名を対象に、継続的な運動習慣が皮膚の性状やAD病態に及ぼす影響を検討した。対象者を、コントロール群3名、ウォーキング(1日30分、週5日)を行うWALK群11名、65%HRRのランニング(1日30分、週3日)を行うRUN群12名に群分けし、6週間の介入試験を実施した。皮膚の性状として、左前腕の角質水分量、真皮水分量、粘弾性、安静時発汗量を測定し、AD病態関連因子として、好酸球数、LDH、IgE、TARCを測定した。また、患者の自己回答形式のAD病態評価として、DLQI、POEM、ADCT、PO-SCORADを実施した。その結果、運動介入後にRUN群で角質水分量と安静時発汗量、WALK群で真皮水分量が有意な増加を示した。また、運動介入後にWALK群でIgEが有意に低下し、TARCも低下する傾向を示した。AD病態の自己評価では、運動介入後にWALK群でDLQI、POEM、ADCT、PO-SCORADのスコアが有意に改善し、RUN群においてもADCTのスコアが改善する傾向が示された。従って、運動による皮膚への影響は運動強度や頻度によって異なるが、適度な運動習慣は皮膚の機能を向上させ、特にウォーキングはAD病態の改善に寄与する可能性が推察された。本研究期間全体の結果から、日常身体活動量の増加や適度な運動習慣はAD治療のために有効であることが示唆されたが、ADの重症度別の解析や使用薬剤の影響、運動の種類や強度による影響、メカニズム解明などより詳細な検討を実施する必要があると考えられる。
|