近年、日本では、低出生体重児の頻度が約10%と増加傾向にある。またDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD) 説では低出生体重児は2型糖尿病をはじめ、様々な生活習慣病の発症リスクを高めるとされている。これらのことから、将来、生活習慣病の増加が危惧されている。しかし、DOHaD説の分子メカニズムは未だ明らかとなっていない。 これまでに、我々はヒト組織の胎盤を用いて、どのような栄養成分がエピゲノムや遺伝子発現に影響を及ぼしているのか、また、胎盤重量、出生体重に影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的に、胎盤重量と出生体重の両方が低い3例と高い3例を用いて、各胎盤の遺伝子発現量をマイクロアレイで網羅的解析を行っており、出生体重の違いによって、胎盤で発現する遺伝子の違いを示した。 今回、我々は、このマイクロアレイの結果より、低い出生体重と比較して高い出生体重で、発現量の高かった遺伝子Spexin(SPX)に着目した。まず、124検体の胎盤を用いてSPXの発現量と胎盤重量、出生体重との関連性を検討した。その結果、胎盤重量とSPX発現量には有意な正の相関関係が見られた。一方、出生体重とは相関関係は見られなかった。そこで、児の出生体重を2500g未満と2500g以上の2群に分けて、各母体の胎盤のSPX発現量を検討すると、SPX発現量は2500g未満と比較して、2500g以上で有意に高いことが示された。また、胎盤SPX遺伝子のDNAメチル化状態と胎盤重量、出生体重との関連性を検討した。その結果、胎盤重量とSPXのDNAメチル化率との間に有意な負の相関関係が見られた。一方、出生体重との関連はなかった。今後は、胎盤のSPXの発現量、DNAメチル化状態がどのような栄養成分によって影響を及ぼすのかを検討する予定である。
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