研究課題/領域番号 |
17K13244
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
伊角 彩 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, プロジェクト研究員 (70773175)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 医療コスト / 子ども虐待 / 幼少期の逆境体験 / 高齢期 / ライフコース |
研究実績の概要 |
子ども虐待が健康に与える影響は、幼少期だけでなく高齢期にまでわたることがこれまでの研究で報告されている。しかし、日本には実際に虐待を受けた子どもを把握するシステムがないため、虐待の健康への悪影響を定量的に把握することは難しく、ほとんど研究が行われてこなかった。本研究では、DPC(Diagnosis Procedure Combination; 診断群分類包括評価)データやレセプト(診療報酬明細書)データといった日本の大規模な医療データを既存調査データと合わせて利用することで、虐待によって生じる直接的な医療コストを推計することを目的とした。 本年度は、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study; 日本老年学的評価研究)の2013年度調査データと政令都市A市の前期高齢者における国民健康保険のレセプトデータを連結したデータ(N=7,257)を用いて、幼少期の被虐待経験から生じる高齢者の医療費を推計した。7,257名のうち、平成24年度と平成25年度のどちらかに医療費データがあり、かつ被虐待経験について回答のある987名を本研究の対象とした。高齢者の属性(年齢・性別)を考慮した上で、被虐待経験を持つ高齢者は被虐待経験を持たない高齢者に比べて、より多くの医療費がかかっていることが明らかになった。さらに各虐待の影響を検討した結果、心理的ネグレクトおよび身体的虐待についても、高齢期の医療費に長期的影響を与えることがわかった。このように、幼少期に被虐待経験がある高齢者の医療コストを算出することで、高齢期における虐待の健康への影響を可視化することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データの取得状況などを加味し、当初は平成30年度から実施予定であった高齢期の医療コストに関する研究を先に始めたが、その点以外はおおむね順調に進んでいる。本年度得られた成果は、現在論文化を進めており、9月に国際学会で口頭発表を予定している。 DPCデータを用いた虐待を受けた子どもにかかる医療コストの推計についても、先行研究のレビューを順調に進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた成果をもとに、幼少期の被虐待経験が高齢者の健康に与える長期的影響について、医療コストの増加がどのような疾患によって生じているかをより詳細に検討する。また、介護費についても同様の分析を行う。さらに、政令都市A市以外にも、レセプトデータとの連結が可能なJAGES参加自治体がある場合は、同様に医療コストの分析を行い、より汎用性の高い研究へと発展させる。 DPCデータを用いた虐待を受けた子どもにかかる医療コストの推計については、レビューした先行研究をもとに、重度の身体的虐待・性的虐待・ネグレクトに関係するICDコードを特定する。そのICDコードを用いて、2008年から2014年にそれぞれの虐待で入院した子どもの数を特定し、重度の虐待の発生率を推計する。さらに、DPCデータから虐待により入院している子どもをサンプルとして抽出し、平均入院日数および治療費を虐待の種類別に算出し、非虐待群の医療コストとの比較を行う。 研究成果については引き続き国内および海外の学会で発表を行い、論文執筆・海外ジャーナルへの投稿を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
米国オクラホマ大学に在籍する研究協力者との打ち合わせが研究の進捗状況に合わせて来年度以降になったため。合わせて、以下の通りに使用する予定である。 1. 研究協力者との打ち合わせのための外国旅費、2. 学会での成果発表にかかる国内および外国旅費、3. 研究打ち合わせにかかる交通費、4. 論文出版のための学会誌投稿料および英文校正料、5. その他、研究に必要な備品・消耗品購入費
|