研究実績の概要 |
本研究では、DPC(Diagnosis Procedure Combination; 診断群分類包括評価)データやレセプト(診療報酬明細書)データといった日本の大規模な医療データを既存調査データと合わせて利用することで、虐待によって生じる直接的な医療コストを推計することを目的とした。 最終年度である今年度は、前年度にJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study; 日本老年学的評価研究)の2013年度調査データと調査協力自治体であるK市の前期高齢者における国民健康保険のレセプトデータを連結したデータを用いて解析した、幼少期の被虐待経験によって生じる高齢者の医療コストの推計について論文を執筆し発表した。具体的には、高齢者の属性(年齢・性別)を考慮しても、いずれかの被虐待経験を持つ高齢者(N=176)は被虐待経験を持たない高齢者(N=802)に比べて、年間医療費が116,098円多くかかっていることを報告した。各虐待の影響に関して、心理的ネグレクトと身体的虐待は被虐待群とそうでない群で医療費に有意な差が見られたが、高齢者の属性(年齢・性別)を考慮すると統計的に有意な関連が見られなくなった。これらの結果から、幼少期の被虐待経験によって前期高齢期の年間医療費が日本全体で約3,330億円生じている可能性を示唆した。 DPCデータを用いた虐待を受けた子どもにかかる医療コストの推計については、前年度に引き続き、研究協力者との打ち合わせを行い、虐待に関するICDコードの特定を進めた。
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