ASDの早期発見は、ASD児本人への適切な支援をする上で非常に重要な問題であり、ASDの早期発見は、的確な情報周知による二次障害防止にもつながる。我が国では現在、母親への聞き取り調査に基づく日本語版M-CHATが主流であるが、M-CHATによる診断は、1.主観的な面が多く、2.診断可能な月齢が遅い、という問題が挙げられる。したがって、より1.客観的かつ2.早期に実施可能な診断方法の確立が急務である。近年の研究では、社会的触覚刺激に対する眼窩前頭皮質の活性化はASD早期診断の客観的指標のひとつとして考えられている。また、ASD 傾向の強い健常成人では社会的触覚刺激に対する二者間の社会脳活動の同調が弱いことが脳イメージング研究により示されている。本研究の目的は、『眼窩前頭皮質の活性化のみならず二者(母子)間の脳活動の同調がASD児の早期診断の指標となる』という仮説を検証することである。 最終年度では、研究代表者の研究機関異動に伴い、前年度に開発した母子間脳活動の同期を解析するWavelet Coherence解析を活用するための実験協力者(乳児)プールを構築した。縦断的な生後3〜10ヶ月の乳児のデータを取得したが、母子間脳活動同期からASD傾向を予測する結果は得られなかった。一方、触覚的社会刺激に対する眼窩前頭皮質の反応性の臨界期を縦断データより明らかにすることができた。本研究成果を、日本生理学会、日本乳幼児教育学会にて発表した。また、前頭前野の反応性と関連する行動指標(主に実行機能)と保育及び教育の関連性についての研究成果を査読付き論文として発表した。
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