本研究の目的は,乳児期の生後1.5ヶ月,3ヶ月,5ヶ月,7ヶ月の4時点における父親・母親とのマルチモーダルな身体接触遊び(特にくすぐり遊び)の発達の様相を,視線・音声・三次元動作解析及び行動観察から明らかにすることである。ビデオカメラ,メガネ型アイトラッカーと小型モーションキャプチャを用いてデータ収集を行った。それらの行動データの収集に加え,どの程度うまく遊べたか(身体接触遊びの成立の成否)の主観的判断やくすぐり遊びについてのイメージを測る質問紙と,産後うつに関する質問紙によるデータ収集も行った。 本年度は,新型コロナウィルス感染症流行の影響により中断していたデータ収集を再開するとともに,既に収集したデータについて中間的な分析を行った。特に乳児と身体接触遊びをした際の,母親による遊びに関する主観的評定(遊びがうまくいったか否か)と,母子相互作用における実際の行動との関連性について検討を行った。その結果,身体接触遊びにおいて「うまくいった」と判断された遊びの割合は発達的に異なり,特に生後1.5ヶ月頃の身体接触遊びにおいては「うまくいった」と判断されることが少なかった。母親により「うまくいった」と判断された遊びでは,乳児において「微笑み」,「くすぐったがり」が有意に多くみられ,「泣き」,「ぐずり」は有意に少なかった。身体接触遊びにおいて,母親はこれらの乳児の行動を手掛かりとしてモニターしながら,「うまくいった」か否かを判断していると考えられる。さらに母子の相互作用の時系列的変化に着目して事例的に分析したところ,「うまくいった」遊びにおいては母子の間で盛り上がりの共有や笑いの共有・共振がなされていた。そうしたナラティヴの共有が,「うまくいった」か否かの判断と関連している可能性がある。これらの結果について,国内の学会において報告を行った。
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