本研究の目的は,生後1.5ヶ月,3ヶ月,5ヶ月,7ヶ月の4時点における親子のマルチモーダルな身体接触遊び(特にくすぐり遊び)の発達の様相を,視線・音声・三次元動作解析及び行動観察から包括的に明らかにすることである。親子の行動データは,ビデオカメラ,メガネ型アイトラッカーと小型モーションキャプチャを用いて収集された。加えて,どの程度うまく遊べたかの主観的評定等を測る質問紙調査を行った。本年度は,身体接触を伴う関わりがもたらす発達的な意味・意義について,自他理解や情動性,共振性,親子関係等に着目して先行研究を概観し,整理・検討した。さらに母子・父子のデータを対象として,親子の身体接触遊びに関する親による主観的評定(遊びがうまくいったか否か)と親子相互作用の関連性,およびその発達に着目して検討を行った。結果として,親子の身体接触遊びにおける相互作用は発達的に変化しており,それらは親の主観的評定と関連している可能性が示された。親による主観的評定において,身体接触遊びが「うまくいった」と判断される割合は生後1.5ヶ月が最も少なく,生後3ヶ月に最大となり,生後7ヶ月にかけて減少していた。そうした主観的評定は,身体接触遊びにおける乳児の微笑や泣き・ぐずり,親の関わりかけにおける文脈(次の展開の予測をさせやすくするような関わり)の有無と有意に関連していた。また「うまくいった」と判断された遊びにおいては,乳児の微笑は生後1.5ヶ月から5ヶ月にかけて増加し7ケ月に減少した一方で,ぐずり・泣きなどのネガティブな反応は生後5ヶ月に生じ,7ヶ月に増加した。つまり生後7ヶ月時の身体接触遊びにおいては「うまくいった」遊びであっても乳児においてポジティブ・ネガティブ双方の反応が発現しており,そうした事例では特に身体接触・聴覚・視覚を用いた互いのマルチモーダルな行動調律・調整がなされていることが示唆された。
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