研究課題/領域番号 |
17K13260
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
谷口 敦彦 東京薬科大学, 薬学部, 講師 (30790125)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光酸素化 / 触媒 / ペプチド / マイオスタチン |
研究実績の概要 |
本研究課題では、筋ジストロフィーや老年性筋萎縮等の疾患における新しい治療法を目指して、筋肉増殖抑制活性を有するマイオスタチンを選択的に光酸素化し、その機能を阻害することを目的としている。本目的に向けて、平成29年度では、光酸素化触媒とマイオスタチンリガンドが連結したコンジュゲートの合成を行った。具体的には、アジド基を有した触媒フラグメントと末端アキンを有したリガンドフラグメントを合成し、次いで両フラグメントをヒュースゲン環化付加により連結することで、目的のコンジュゲートを得た。 触媒部位は、我々が開発した、ターゲット高選択的に光酸素化を起こす触媒を採用した。すなわち、本触媒は、ターゲット分子との結合により、触媒分子内の単結合回転が抑制されることをトリガーとして、光酸素化活性を発揮するというものである。本研究課題の申請時には、BODIPY骨格を有する触媒を採用予定であったが、近年我々が報告した、より良好な特性を示す別骨格の触媒(Chem, 4, 807-820 (2018).)に変更した。 一方、リガンド部位は、当研究室で報告しているマイオスタチン結合ペプチドを基盤とした。当初、最近見出された高いマイオスタチン結合能を有する短鎖化ペプチドリガンドの採用を試みたが、本ペプチドの低溶解性に起因して、コンジュゲートの合成が困難であった。そこで、申請時に予定していた23残基のペプチドリガンドに再変更した。 最終的に、新骨格の光酸素化触媒フラグメントと23残基のマイオスタチン結合ペプチドフラグメントを用いて、目的のコンジュゲートを得ることができた。引き続き、マイオスタチンに対する酸素化能や結合能を評価していく予定である。またコンジュゲートの合成法が確立されたので、フラグメント間のリンカーや、ペプチド鎖上の触媒導入位置等を変更した一連のコンジュゲート群についても同様に合成可能と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題申請時の計画では、平成29年度に、光酸素化触媒とマイオスタチン結合ペプチドのコンジュゲートを合成し、その酸素化能と結合能を評価する予定であった。当該年度の進捗は、コンジュゲートの合成に止まっている。その理由は、当初、触媒部位にBODIPY骨格の光酸素化触媒を利用しようとしたが、近年我々が報告した、より良好な性質を示す別骨格の触媒に変更したことが挙げられる。本触媒は、BODIPY骨格の触媒より長波長光で励起することが可能であるため、より生体適応性が高いと考えられる。 また、当初、マイオスタチン結合ペプチドとして、最近見出された高い結合能を有する短鎖化ペプチドの採用を試みた。しかし、本ペプチドの低い溶解性に起因して、ペプチドフラグメントと触媒フラグメントとのヒュースゲン環化付加が進行しなかった。そこで、申請時に予定していた23残基のマイオスタチン結合ペプチドの採用に再変更した。その結果、ヒュースゲン環化付加が進行することが分かった。 以上のように、分子設計の変更のため、予定より合成に時間がかかったが、計画段階より優れた性質を持つコンジュゲートを設計、合成することができた。現在更なる収率の向上を目指して、反応条件の最適化を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では、目的とする光酸素化触媒とマイオスタチン結合ペプチドのコンジュゲートを得ることができたので、引き続き、本コンジュゲートの大量合成、及びマイオスタチンに対する酸素化能と結合能の評価を行う。また、これらの評価結果を踏まえて、フラグメント間のリンカーの変更や、ペプチド鎖における触媒導入位置の変更を行い、構造最適化を実施する。平成29年度中に、コンジュゲートの合成法を確立することができたので、他のコンジュゲート群も同様の方法で合成可能と考えている。触媒部位とリガンド部位の連結において、もしヒュースゲン環化反応が困難であった場合は、当研究室で開発した効率的ジスルフィド形成法を適用して、両部位をジスルフィド結合で連結することも計画している。 それらの中で、良好な結果を与えたコンジュゲートについては、細胞を用いたアッセイ系によって、光酸素化によるマイオスタチン活性の阻害についても評価していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、コンジュゲートの合成、さらにマイオスタチンに対する酸素化及び結合能の評価を計画していたが、触媒フラグメントやリガンドフラグメントの変更により、コンジュゲートの合成のみにとどまった。その結果、使用額がやや少なくなった。 一方、当該年度で目的のコンジュゲートが得られたので、次年度はマイオスタチンに対する酸素化及び結合能の評価、さらには酸素化によるマイオスタチン活性阻害の評価を行う予定である。これらの生化学実験及び細胞実験では、マイオスタチンを始め、相互作用解析関連の消耗品、細胞培養関連の消耗品、ルシフェラーゼレポーターアッセイの測定キット等、高価な試薬や消耗品が必要となる。
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