がんは様々な遺伝子変異の蓄積によって解糖系を亢進するなどエネルギー代謝経路を変化させて生存・増殖を有利にすることから,エネルギー代謝を阻害する化合物は,がん特有の代謝経路を利用した抗がん剤の候補として期待される.これまでの,エネルギー代謝阻害化合物の探索研究から,クエン酸回路のフマル酸水和酵素を阻害するピロリジノンを見出している.また,解糖系を阻害する化合物の探索により新規マクロライドを見出している.しかしながら,これらの化合物の作用機序および新規マクロライド ディプリライドAの構造は解明できていない.本研究では新規マクロライドの構造を解明,ピロリジノンの作用機序解明を目的として研究を行った. 前年度はディプリライドAの平面構造を決定し,相対及び絶対配置を一部決定した.本年度は,ディプリライドの断片化を検討し,エステルとデオキシ糖を含むフラグメントとマクロライドを含むフラグメントへの変換に成功した.マクロライドを含むフラグメントの詳細なNMR解析から,31位の立体配置を決定した.エステルを含むフラグメントをMTPAエステルへと誘導し,改良Mosher法を用いて絶対立体配置を決定した. 昨年度作成したピロリジノンにアルキンタグを導入したプローブがミトコンドリアに局在することを確認した.ピロリジノンで処理した細胞ではミトコンドリアの断片化が観察された.また,ミトコンドリア内の活性酸素種の発生と,カスパーゼ-3の断片化が観測された.ピロリジノンがフマル酸水和酵素を阻害した結果,ミトコンドリア内の活性酸素種の上昇とミトコンドリアの断片化を引き起こし,アポトーシスを誘導する可能性が示唆された.
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