本研究は、心筋分化促進化合物KY02111の作用機序を明らかにすることで、多能性幹細胞の心筋分化機構を解明することを目的としている。昨年度までに、KY02111の結合タンパク質として、タンパク質Xを同定し、KY02111がタンパク質Xと心筋分化に関わるタンパク質Yの結合を阻害することを見出していた。そこで本年度は、その作用機序のさらなる解明を試みた。 まず、タンパク質Xまたはタンパク質YをノックアウトしたiPS細胞の作製を、CRISPR-Cas9システムを用いて試みた。しかし、残念ながら、それらをノックアウトした細胞を得ることができなかった。一方、新学術領域「先端モデル動物支援プラットフォーム 分子プロファイリング支援活動」でのKY02111の生理活性評価により、KY02111がTGFβ刺激によるN-カドヘリンの発現を抑制することが見出され、KY02111がTGFβシグナルに影響を及ぼすことが示唆された。RNAi法によりタンパク質X、あるいはタンパク質YをノックダウンしてもTGFβ刺激によるN-カドヘリンの発現の抑制が認められた。さらに、SMAD4はTGFβシグナルにおいて重要なシグナル伝達因子の一つであるが、KY02111の添加、あるいはタンパク質Yのノックダウンにより、SMAD4の発現量の低下が認められた。また、KY02111の誘導体についても検討したところ、TGFβシグナルの阻害活性と心筋分化促進活性に相関が認められた。TGFβシグナルが抑制されると、中胚葉系細胞から心筋細胞への分化が促進されることがこれまでに報告されている。以上の結果より、KY02111はタンパク質Xとタンパク質Yの結合を阻害することでタンパク質Yを不活性化し、SMAD4の発現量を低下させることでTGFβシグナルを抑制し、心筋分化を促進することが示唆された。
|