本研究では、細胞膜透過ペプチド(Cell Penetrating Peptide: CPP)の効率的な選抜技術の開発を目的とした。目的タンパク質とCPPの連結体を簡便・並列に調製する手法として、split inteinを利用した試験管内ライゲーション反応を採用し、実験系開発に取り組んだ。 目的タンパク質にはGFPおよび2種類のGFP点変異体を用い、CPPには細胞膜透過活性を有する代表的なペプチド配列であるTAT配列およびSAP配列を用いた。split inteinにはThermoplasma volcaniumを由来とするVMA inteinの断片体(N-intein、C-intein)を利用した。目的タンパク質とN-inteinの融合体は大腸菌を宿主とする発現系で調製し、CPPとC-inteinの融合体は化学合成により得た。これらの断片を混和し、ライゲーション反応の進行をSDS-PAGEによって評価した。反応条件(温度、時間、pH、塩濃度、還元剤濃度)の検討を重ねたものの反応効率は十分でなく、 副反応分解物が観察された。目的タンパク質によって反応効率が大きく異なることから、split inteinと目的タンパク質との間に生じる相互作用が反応に影響していることが示唆された。また、これらの断片の相互作用を表面プラズモン共鳴を用いて分析したところ、CPPとN-intein、CPPと目的タンパク質のそれぞれにおいて、非特異的な相互作用が示唆された。中性付近において正に帯電したCPPと、負に帯電したN-inteinおよびGFPが静電相互作用で結合したものと考察できる。高効率に連結体が得られる反応系を構築するためには、適切なリンカー配列の導入、反応条件の更なる検討、ひいては反応条件に適したsplit inteinのデザインが必要であると考えられ、今後の研究の進展に重要な知見が得られた。
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