研究実績の概要 |
本年度は、ヒトと同じ霊長類であるマーモセットのMT野の視覚応答を調べるための実験セットアップを中心に行った。まずは麻酔下で神経応答を調べることを計画していたので、その予定通りに進めた。麻酔下のマーモセットに、動き視覚刺激を提示したときのMT野の視覚神経応答を、光学内因性信号計測により測定して解析した。その結果、動き視覚刺激の提示位置に応じて、MT野内の異なる領域が活動していること(レチノトピー)を観察することができた。これにより、麻酔管理、視覚刺激提示、データ解析などの現在の実験系が十分に機能していることを確認した。
さらに、MT野を含む神経回路を明らかにするため、光学内因性信号計測で得られたレチノトピーマップに基づいて、中心窩、周辺上視野、周辺下視野に対応するMT野内の3箇所に、異なる蛍光タンパク質を発現する順行性のウイルストレーサーを注入して調べた。MT野からは、後頭葉(V1野,V2野,V3野,V4野)、側頭葉(MTC野, MST野, FST野, FSTv野)、頭頂葉(V3A野,V6野,V6A野,AIP野,LIP野,MIP野)、前頭前野皮質(8野)に投射していることが分かった。3つの注入では、どれも同様な脳領野に投射していたが、前頭前野皮質や頭頂葉などの投射先の各脳領野内では、重なり合っていなかった。このことから、レチノトピーに対応した神経結合がMT野と投射先の脳領野の間に存在し、視野の同じ部分を表現する細胞集団が、各脳領野間でつながって動き視覚刺激を処理する神経回路を構成すると考えられた。現在、MT野からの神経投射についての結果を論文にまとめ、投稿準備中である。また、ウイルスを脳内注入する手法に問題がないことを確認できた。
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