研究課題/領域番号 |
17K13281
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
閻 美芳 宇都宮大学, 雑草と里山の科学教育研究センター, 講師 (40754213)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 団地移転プロジェクト / 農村都市化 / 生活実践 / 生民 / 農民身分 / 新農村建設政策 / 国家観念 / 新型農村社区 |
研究実績の概要 |
2008年から、天津市武清区X鎮で行われているいくつかの村を団地に集住させる団地移転プロジェクトの現場に行き、聞き取り調査と参与観察を継続してきた。800軒以上、2000人の人口を有する事例地・X村は、2006年に団地移転プロジェクトを持ち込まれた。以来、9割以上の村人が団地に移転したものの、2018年現在、依然として30軒以上の村人が断水した村で暮らしている。また、団地に移転しても、農民身分のままの移転であるため、村人は都市住民と同額の年金制度、医療保険、失業手当をもらえない。それに団地の建設で農地を失った村人もいる。こうした中、村人の中には生活の水準を維持するため、団地の芝生を農地に開墾してトウモロコシ、野菜畑にする人もいた。2017年度の調査でこれらの事実を踏まえて、学会発表を行った。2018年にX村で再度調査をしてから、研究成果を一般の人々の目に触れるように論文にまとめた。具体的には、『中国の『村』を問い直す―流動化する農村社会に生きる人びとの論理』(南裕子・閻美芳編著、明石書店、ISBN978-4-7503-4833-9、2019年出版)の第一章「‘アウトロー’的行為の正しさを支える中国生民の正当性論理―天津市武清区X村の団地移転を事例として」に掲載した。この文章では、団地のユニットを手に入れても団地移転をせず、村で暮らし続ける村人、団地に移転したものの、団地の芝生を畑に開墾する、一見破壊的な行為をする村人を取り上げた。そして、このような一見‘アウトロー’的行為をする村人が、なぜ共通して自分たちが正しいことをしていると主張するのかに焦点をあて、聞き取りの詳細なデータをもとに、村人たちの正当性の論理を探ってみた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今までの農村調査で培ってきた信頼関係と人脈によって、現地で社会調査を継続することができた。そのほか、天津市内にある大学の日本語教師の協力を得て、天津市武清区の政策担当者に聞き取りをすることができた。これによって、農民を団地に移転させる団地移転プロジェクトの背景にある地方政府の政治力学を把握することができた。 他方、中国における農民の団地移転は天津市武清区X村のように、政府主導で行われるところもあれば、近年、若者の自主的な都市移動によって行われる側面もある。2018年の調査で、若者の自主的な都市移動が今までの農村にあった家の持続を保証してきた「生育制度」という文化装置とどのように共振しているのか、とりわけ、一人っ子政策後に生まれた若者の都市移動が農村の消滅にどのようにつながっていくかにも目を向けるようになった。これによって、天津のような政府主導で行われた団地移転プロジェクトだけではなく、村人みずからが主体的に団地に移転する側面も同時に見られるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年には、今まで現場で培ってきた人脈を使って、引き続き天津市武清区X村で農民の団地移転に関する聞き取り調査をする。個々の農民のライフヒストリーにも着目し、生活史の観点から団地移転が個々の農民の生活に与えた影響とその対応を明らかにする。また、現地での調査成果を英語に翻訳し、一般公開にも力を入れようと考えている。 それと同時に、一人っ子政策後に農村に生まれた若者の都市への移動が、結果として農村から都市の団地への移住を促していることを、2018年の山東省農村での調査で把握した。このことを2019年度において、学会発表をする上で、論文を学術誌に投稿する。と同時に、2019年度は、引き続き、農村出身の若者の自主的都市移動に関する調査を実施し、若者の都市の団地への移転が、既存の農村コミュニティの存続にいかなる影響を与えるのか、離村する若者の出身村に視野を広げ、調査を深める予定である。
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