中国では、都市と農村の経済的な格差が大きな社会問題となっている。2000年代に入ってから、中国政府は農村に投資を傾斜し、都市と農村の格差を埋める取り組みを推進してきた。本研究は、天津市武清区でのフィールドワークをもとに、次のような問題関心を踏まえて、研究を進めてきた。すなわち、いくつかの農村を一か所の団地に集まり、農家を一か所の団地に集住させる団地移転プロジェクトが、どのように村人の生活空間を改変させてしまったのか。また、団地移転後、村人のライフスタイル、生活実践にどのような変化が見られ、「都市的な空間」を飼いならしているのか。 3年間にわたるフィールドワークの成果を、南裕子・閻美芳編著『中国「村」を問い直す―流動化する農村社会に生きる人びとの論理』(2019年4月出版、明石書店)に、第1章「‘アウトロー’的行為の正しさを支える中国生民の正当性論理―天津市武清区X村の団地移転を事例として」pp.32-61を掲載した。団地移転プロジェクトが実施されてから10年近くたった現在も、移転を拒否し、断水した村内で暮らし続ける村人がいた。そうした村人の抵抗・忍従の論理とは、「自分たちの生存は国家が保障すべきである」とする生民国家観であった。そこでは、農村都市化政策下でも移転せずに「自分たちは正しい」と主張する際に用いられる生民国家観の存在を明らかにした。 また、2019年6月に日中社会学会では山東省の農村での調査を踏まえて、次のことを発表した。すなわち、中国では、生育制度が一人っ子政策後に生まれた若者を都市へと押し出し、農村を危機に陥れる逆機能を果たしていたことを明らかにした。ここでの生育制度とは、人がいかにして配偶者を求め、結婚し、子供を産み育てて父母になるかに関する一連の規則のことであり、村の持続性を担保するものであった。 今後、調査内容を整理し、研究成果を発表していく予定。
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