研究課題/領域番号 |
17K13285
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
下條 尚志 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 助教 (50762267)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 辺境 / 東南アジア大陸部 / 国境 / 河川 / 海域 |
研究実績の概要 |
平成29年度の最大の業績は、単著論文「ベトナム―カンボジア国境の越境移動をめぐるローカルな政治―冷戦終結後メコンデルタのクメール人越境者とベトナム国家」『アジア・アフリカ言語文化研究』(第95号、2018年3月刊行予定)を発表したことである。同論文は、2015年に提出した博士論文『統治と生存の社会史―ベトナム南部メコンデルタの戦争と社会主義』の一部を大幅に加筆・修正したものである。同日本語論文の内容は、2017年11月にオーストラリア国立大学で行われた国際会議Vietnam Update 2017において、事前に提出した英語論文“Migration as Survival Strategy in a Multi-Ethnic Village of the Mekong Delta since 1975”においても発表している。この英語論文は、加筆・修正の上、シンガポールのISEASの雑誌SOJOURNに投稿する予定である。また、同論文の内容については2017年12月にチュラロンコン大学にて行われたSEASIA2017でも発表している。 さらに、京都大学東南アジア地域研究研究所主催のゾミア研究会の運営に積極的に関わり、同研究会の活動の幅を広げることに貢献した。 2017年4月から7月にかけて東南アジア地域研究研究所バンコク事務所に駐在し、タマサート大学のベトナム研究者と積極的に交流した。 2017年8月、9月にベトナムとカンボジア、2018年3月にはベトナムにてフィールドワークを行い、ベトナム南部からカンボジアにかけて広がる多民族社会を考察してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から、ベトナム南部メコンデルタ、チャヴィン省のチャヴィン大学と協力関係を構築してきた。2018年3月にはチャヴィン省各地で調査地を選定するため、チャヴィン大学の教員、学生とともに広域的なフィールドトリップを実施した。調査地の選定にあたり、クメール人、華人、ベト人が混住し、相互間の影響が強くみられる地域、またメコン河の支流であるコチエン河流域社会であることを基準とした。結果、この基準を満たす地域として、チャヴィン省チャウタン県ホアロイ村において今後、集中的に社会歴史に関する定点調査を実施していくこととなった。このようにベトナム側において定点調査を実施していく見込みを得られた。 また2017年8月にはカンボジアのプノンペンの各寺院をめぐってフィールドワークを行い、そこでも大きな成果を得られた。具体的にはベトナム側のチャヴィン省や隣のソクチャン省からプノンペンへ移動したクメール僧侶複数にインタビューをすることに成功し、またベトナム出身のクメール僧侶達が止住している寺院をいくつか特定することができた。 さらに、ベトナム―カンボジア国境を陸路で移動したことにより、両国間の移動を成立させている国境ゲートの管理者やバス会社の社員、またベトナム、カンボジア語両方を話すバスの車掌など、様々な社会的アクターを特定することができた。 今後研究を発展させていく上で、当初想定していた河川・海域に関する情報はいまだ十分に得られておらず、課題は残るものの、以上の結果を得られたことにより、平成29年度の研究の進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで構築してきたチャヴィン大学との協力関係を活かし、チャヴィン省チャウタン県ホアロイ村において定点調査を行っていく予定である。具体的にはメコン河の支流コチエン河流域に位置するホアロイ村という地域社会が、19世紀以降の植民地化、国民国家形成にいかなる影響を受けてきたのか、また在来のクメール人社会が河川流域沿いに移住してきた華人やベト人とどのような関係性を結んできたのか、あるいはいかなる衝突が生じてきたのかについて考察する予定である。それとは別にホアロイ村においておよそ100世帯ほどを対象に悉皆調査を実施し、現在の社会状況がどのようになっているのかについても詳細に検討する予定である。 またカンボジア、プノンペンでも継続して調査を行う予定である。具体的には昨年度の調査でベトナム出身のクメール僧侶が集住している寺院において可能であれば各僧侶全員にインタビューを行い、どのような経緯で移住したのかについて質問する予定である。またその寺院に通う俗人にもインタビューを行い、ベトナム出身者がいるかどうか、またベトナム出身のクメール僧侶をどのように認識しているのかについて質問する。 さらに、ベトナム―カンボジア国境地域の状況についても調査を行う。具体的には自動車を借り、ベトナム側シャム湾沿岸に位置する都市ハーティエンから沿岸に沿って国境を越えてカンボジアのコンポートなどの主要都市をめぐり、さらにカンボジア国境を越えてタイのチャンタブリーまで移動することを計画している。特に市場や宗教施設をめぐり、国境を越えて移動する商人や宗教関係者がいかなる活動をしているのかについて考察する。
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