研究課題/領域番号 |
17K13285
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
下條 尚志 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 助教 (50762267)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 辺境 / 東南アジア大陸部 / 国境 / 河川 / 海域 / 多民族 / 混淆 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ベトナム―カンボジア国境に跨る広大な政治的辺境世界「ウォーター・フロンティア」の歴史的・現在的意義を問い直し、東南アジア大陸部の社会―国家関係の変遷を解明することにある。20世紀のベトナムとカンボジアは、世界恐慌、長期的な戦争、社会主義政策による動乱を経験した。動乱により生存危機に瀕した多数のベトナムの人々が、難民や経済移民として国境を越え、カンボジアへ渡った。本研究は、人々の越境した背景、越境の際に利用した人間関係、越境者に対する国家の対応を、ベトナム南部メコンデルタ多民族社会からカンボジアのメコン河流域、シャム湾沿岸地域にかけ広がっていたとされる政治的辺境世界に着目し、考察するものである。 平成30年度は、メコンデルタ、チャヴィン省のチャヴィン大学の協力の下、同省の村落にて2018年8月後半~9月前半、2019年3月前半にフィールドワークを実施し、インタビューに基づく社会調査、オーラル・ヒストリー調査を実施した。さらに2018年12月後半、ベトナム―カンボジア国境地域のチャウドック市、チトン県、ハーティエン市、シャム湾沿岸沿いのラックザー、またバサック(メコン河支流)河流域のソクチャン省にて、華人廟、クメール寺院、ベトナム寺を訪問するなどの広域的調査を実施した。これらの調査で得られた知見は、バサック河以西と以東では、多民族社会に質的な差異が見られることである。差異とは、具体的には、これまで筆者が長期的な調査を行ってきた以西では、文化、婚姻関係という点で民族的混淆・混住がみられるものの、チャヴィン省などの以東では、自然環境、あるいは市場―農村の地理的位置関係に応じた民族の「住み分け」状況がある程度見られたことである。ウォーター・フロンティアは、自然環境が流動的であり、市場経済の発達が顕著に見られたバサック河以西で主に発達してきた可能性があることを理解した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記で述べたフィールドワークや、シンポジウム発表(「ベトナム南部メコンデルタ多民族社会の民族・宗教・越境」『東南アジア学会北海道・東北地区例会シンポジウム境界からみるアジア―宗教の中心と周縁』2018年10月)を通じて、博士課程時代の研究を乗り越える新たな研究の可能性を拡げることができたと確信している。平成30年度は単著出版準備に集中していたこともあり、年度内に十分な成果を出すことができなかったものの、2019年4月中に2018年度の以下の3点の研究成果を投稿することが確定しているため、研究課題はおおむね順調に進展している考えられる。 (1)京都大学学術出版会、地域研究叢書シリーズに単著学術書原稿『統治と生存の社会史―脱植民地化以降のメコンデルタ多民族社会とベトナムの動乱』を投稿。 (2)京都大学東南アジア地域研究研究所の機関雑誌Southeast Asian Studiesに単著英語論文("Migration as a Survival Strategy in a Multi-Ethnic Village in the Mekong Delta since 1975")を投稿。 (3)2019年5月:王柳蘭編著『ミクロヒストリーから照射する越境・葛藤と共生の動態に関する比較研究』(仮)の一章分として論文『「クメール人の周縁化」史観をめぐる一考察―ベトナム南部メコンデルタ多民族社会における差異の認識』を投稿。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度8月は中旬に、カンボジア研究者、タイ研究者と共同で、シャム湾沿岸のラックザー市、ハーティン市(ベトナム)、コンポート、コッコン(カンボジア)、チャンタブリー(タイ)の寺院、廟を巡る予定である。その目的は、シャム湾沿岸で発達してきた、国境を越えた地域的特徴を明らかにすることである。 また2019年度は、2018年度の研究成果を複数の国際シンポジウムで発表することが、以下のとおり確定している。 (1)2019年7月: ICAS 2019(ライデン大学)にて口頭発表。タイトルは、"Belonging and Religion of the Multi-Ethnic Society in Vietnam’s Mekong Delta: Border-Crossing by the Monks of Khmer Theravada Buddhism" (2)2019年9月:Euroseas2019(フンボルト大学)にて口頭発表。タイトルは、 “Water Frontier in the Mekong Delta since 20th Century” (3)・2019年11月:京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科とロンドン大学ゴールドスミス・カレッジとの共同プロジェクトの一環、ロンドン・ワークショップにて口頭発表。タイトルは、"Belonging and Religion of the Multi-Ethnic Society in Vietnam’s Mekong Delta: Border-Crossing by the Monks of Khmer Theravada Buddhism"
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次年度使用額が生じた理由 |
①物品費:本研究に関連する日本語書籍、英語書籍、ベトナム語書籍に使用する。 ②旅費:2019年8月に予定しているベトナム、カンボジア、タイのフィールドワークでの旅費、および2019年7月のオランダでの国際学会(ICAS 2019、ライデン大学)、9月に予定しているドイツでの国際学会(Euroseas2019、フンボルト大学)の旅費として助成金を使用する。 ③その他:2019年4月投稿予定の英語論文の校閲費、上記2つの国際学会発表の校閲費として、助成金を使用する。
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