研究課題/領域番号 |
17K13285
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
下條 尚志 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 助教 (50762267)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 辺境 / 東南アジア大陸部 / 国境 / 河川 / 海域 / 多民族 / 混淆 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ベトナム―カンボジア国境に跨る広大な政治的辺境世界「ウォーター・フロンティア」の歴史的・現在的意義を問い直し、東南アジア大陸部の社会―国家関係の変遷を解明することにある。20世紀のベトナムとカンボジアは、世界恐慌、長期的な戦争、社会主義政策による動乱を経験した。動乱により生存危機に瀕した多数のベトナムの人々が、難民や経済移民として国境を越え、カンボジアへ渡った。本研究は、人々の越境した背景、越境の際に利用した人間関係、越境者に対する国家の対応を、ベトナム南部メコンデルタ多民族社会からカンボジアのメコン河流域、シャム湾沿岸地域にかけ広がっていたとされる政治的辺境・周縁世界に着目し、考察するものである。 2019年度は、7月にオランダのライデン大学の国際シンポジウムICAS、9月にドイツ、フンボルト大学の国際シンポジウムEuroSEAS、10月にアメリカ、カルフォルニア大学バークレー校の国際研究会、11月にイギリス、ロンドン大学ゴールドスミス校の国際研究会に参加し、本研究に関連する研究発表を行い、海外の研究者と意見交換を実施した。 さらに8月には、ベトナムからカンボジア、タイにかけ、シャム湾沿岸地域の各都市を乗用車でめぐり、各地の市場、地域コミュニティ・宗教施設等を調査した。ベトナムのホーチミン市からスタートし、ソクチャン市、バクリエウ市、ハーティエン市を訪問した後、国境を越え、カンボジア沿岸部のコンポート、コッコンを訪れ、さらに国境を越えてタイへわたり、チャンタブリー、バンコクまで移動した。この調査の過程で、①こうした諸地域で20世紀から現在にかけて「非合法」的な越境移動が行われてきたこと、②言語的、宗教的多様性およびその混淆性が顕著に見られたこと、③近年、中国による「一帯一路」政策により、カンボジアにおいて中国人労働者の移民が顕著であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記で述べた複数の海外シンポジウムを通じて海外の研究者と本研究について活発な議論を行い、さらに8月に実施した広域的かつ国家横断的なフィールドワークを通じて、自身の研究の可能性をさらに拡げることができたと確信している。 2019年度は、上記で述べた海外シンポジウムで事前に提出した2つの英語論文(現在、未刊行の状態)の執筆に専念し、また2020年2月以降は新型コロナウイルスの関係で海外フィールドワークを自粛したこともあり、具体的な研究成果を多く出したとは言い難い。しかしながら、上記のシンポジウムの準備、フィールドワークの傍ら、以下の単著の出版準備を着実に進め、2020年度以内の刊行が予定されている。 (1)下條尚志、『国家の「余白」―メコンデルタ 生き残りの社会史』京都大学学術出版会(査読につき「修正後出版可」の承諾済、2020年度内に出版予定) (2)“Local Politics in the Migration between Vietnam and Cambodia: Mobility in a Multi-Ethnic Society in the Mekong Delta since 1975.” Southeast Asian Studies (査読につき「修正後出版可」の承諾済、2020年度内に出版予定) こうした2019年度の研究状況を踏まえると、本研究課題は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、現状では新型コロナウイルスの感染拡大によって各国が入国禁止等の措置をとっているため、当面は、海外での研究発表やフィールドワークを実施することができないものと推測される。実際、2020年度に参加する予定であったいくつかの海外・国内シンポジウム、研究会が中止となっている。 この状況を踏まえると、英語論文、日本語著書・論文の執筆に専念すべきであると考えている。昨年度に国際学会・研究会で発表した論文の刊行を目指してオンライン上でミーティング等を通じて、論文の発表および海外の研究者と積極的に意見交換を行う。また文化人類学会の学会誌『文化人類学」に投稿する日本語論文を新たに執筆する。さらに、現在カルフォルニア大学バークレー校の機関紙Vietnamese Studiesの編集部に依頼されている、日本のベトナム研究史に関する論文を執筆する。 ただし、比較的早い段階で新型コロナウイルスの感染が世界的に鎮静化した場合は、入国制限等の問題がなければ、ベトナム、カンボジアで追加調査を行い、メコン・バサック河流域の主要都市における市場町、宗教施設等の調査を実行する。具体的には、ベトナム―カンボジア国境という、「非合法」な越境移動が歴史的に行われてきた空間において、人々がいかなる方法で、どのような仲介者、自然環境、人間関係、移動手段に頼り、越境移動してきたのかを考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた理由は、第1に、2020年2月以降、新型コロナウイルスの世界的感染拡大に伴い、海外出張に行くことが困難になったことが挙げられる。第2に、当該助成金の一部を、当初英語論文執筆の校閲費に使用する予定であったが、査読結果通知の遅れ、コロナウイルスの感染拡大に伴ういくつかのプロジェクトの中断もあり、十分に使用することができなかったことが挙げられる。 今年度は、英語論文を複数投稿する予定であるため、その校閲費に本助成金を使用するとともに、もしコロナウイルス収束に伴って海外出張が可能になった場合は、旅費に使用したいと考えている。
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