研究課題/領域番号 |
17K13285
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
下條 尚志 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (50762267)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 上座部仏教 / メコンデルタ / 政治的動乱 / 経済的中心 / 家族・親族関係 / 混淆 |
研究実績の概要 |
2021年度は、2020年度に続き新型コロナウイルス蔓延により、海外調査を実施することができなかった。それゆえ、申請者は論文・著書等の執筆に専念した。具体的には、当該年度、下記の論文・著書を執筆した。 ①下條尚志. 2021.「ベトナム南部メコンデルタ」和田理寛・小島敬裕・大坪加奈子・増原善之・下條尚志・杉本良男共編『東南アジア上座部仏教への招待』(風響社) ⇒この論稿では、メコンデルタの上座部仏教社会が特に近代以降カンボジア上座部仏教との関係のなかで生成されてきたこと、また地域社会で行われている仏教実践が周辺のベト人や華人の影響を強く受けていることを論じた。 ②Shimojo, Hisashi. 2021. “Local Politics in the Migration between Vietnam and Cambodia: Mobility in a Multi-Ethnic Society in the Mekong Delta since 1975.” Southeast Asian Studies 10 (1) ⇒この論稿では、ベトナムが南北に統一された1975年以降にメコンデルタの調査村落の人々が、国境線を越えてベトナム―カンボジア間を、政治的、経済的、社会的要因を背景に移動してきたことを論じた。 これらの成果は、ベトナム―カンボジア国境の間の人の移動が、必ずしも河川・海域世界という生態環境的条件にかぎらず、20世紀における各時代の歴史的状況に応じて、宗教的、政治的、経済的、社会的な諸要因によって実践されてきたことを示す。生態環境的要因の解明については課題が残ったものの、これについては2022年度にフィールドワークを再開することで、明らかにしたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、2020年度に続き、海外調査を実施できなかったという点では、当初の研究方針の大きな変更となったが、「研究実績の概要」で論じたように、本研究テーマと関連する論稿を執筆できたという点では、大きな成果があった。 さらに、12月に実施された東南アジア学会第103回研究大会(Zoom開催、龍谷大学主催)で、申請者は「メコンデルタ多民族社会の混交と忌避の語りから考える身体」という研究内容を発表し、東南アジア大陸部のウォーター・フロンティア地域における「混淆(混交)」をめぐって展開されてきた他者認識や民族問題の諸相について議論した。 新型コロナウイルス蔓延により、国際学会で発表したり海外調査を実施したりすることこそできなかったものの、その分、論稿執筆や定期的な研究会、学会発表を通じて、自身の研究をさらに発展させることができた。 以上の状況に鑑みて、2021年度の研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、まず第1に2022年度こそ、ベトナム、カンボジアでのフィールドワークを再開し、河川・海域世界という生態環境的要因が20世紀以降における人々の移動傾向にいかなる影響を与えてきたのかを明らかにしたい。2022年度になってから、新型コロナウィルスへの東南アジア諸国の感染対策が緩和され、隔離なしに入国できるようになりつつある。予断を許さないものの、少なくともホーチミン市などにおいて、文献資料収集は実現できると考えられる。可能であれば、メコン河・バサック河流域、シャム(タイ湾)沿岸で再び、国境を横断する広域調査を実施することを目指している。寺院や市場、都市などでのインタビュー調査は、現地の感染対策状況を見計らってから、可能であれば実施する。 第2に、各種学会・研究会、雑誌媒体で成果発表を行う。7月2-3日にThe Asian Studies Conference in Japan (ASCJ)がオンライン(上智大学主催)で実施されるが、申請者は"Troubles in the South A Southeast Asian perspective on the global Cold War conflict"というパネルに参加する。このパネルでは、冷戦期におけるベトナム―カンボジア両国の政治と民族をめぐる問題が議論される予定であるが、申請者はディスカッサントとして、ベトナム戦争期のベトナム―カンボジア国境の政治・社会・移動に関して議論する予定である。 2022年度は、この2年間あまり実施できなかったフィールドワークと国際学会への参加を中心にすえて、本研究を推進していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延により、海外調査を実施することが不可能であったため、2022年度の延期を目指して、翌年度に当該助成金を残すことを決定した。 2022年度は、8下旬から9月上旬また3月下旬に、計2回ベトナム、カンボジアへ渡航することを計画している。2回のうちそれぞれ渡航費は20万程度、現地で使用する物品(公文書館での写本や本屋での資料収集)、謝金・人件費(調査助手・レンタカー)はそれぞれ10万程度と予測される。 基本的には、海外調査において、計60万程度の出費することを計画しているが、もし本年度再び新型コロナウイルスが蔓延し、海外渡航が不可能になった場合は、本研究に関連する文献資料を購入することに充てたいと考えている。
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