本研究の目的は、2011年の「アラブの春」後のチュニジアにおいて台頭したイスラーム過激派と、それに抗する世俗主義やスーフィー教団の動態を、聖者廟の破壊と再建の事例に焦点をあてることで、明らかにすることにある。新型コロナウイルス感染症の影響で、補助事業期間をさらに1年間延長し、5年目となった本年度は、昨年度までの調査の遅れを取り戻すべく、チュニジアにおけるフィールド調査を行う予定であった。 しかしながら本年度も、海外渡航が全面的に禁止したため、現地調査は一回も実施することができなかった。このことから、インタビューや参与観察などの文化人類学的なデータ収集は完遂することができず、本研究課題の成果に影響を与えた。国内で実施できる代替調査として、インターネット上で情報収集を行い、言説分析などもの調査も模索したが、現地調査が叶わなかったことによる影響が否めない。また、国内の県外移動が禁止される期間が続いたため、「イスラームの人類学勉強会」など、これまで関係構築してきた研究会・勉強会も活動が止まった。加えて、2021年度は教務委員や地域連携などの本務先での業務が多忙を極め、研究時間の大幅な減少につながった。 これらの要因により、当初の研究計画とは異なる進捗となり、研究成果にも影響を与えた。2021年度の研究成果の公表としては、これまで行ってきた調査データを用いつつ、日本国内で収集できるデータを加え、日本語での雑誌論文1本、書籍の章分担の論考2本、オンライン発表1点を公表した。当初の計画とは、媒体・内容が若干異なるものの、一定の研究成果をアウトプットできたと言える。
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