研究課題/領域番号 |
17K13290
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
今野 泰三 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (90647835)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イスラエル / パレスチナ / シオニズム / ヨルダン川西岸地区 / 入植地問題 / 中東地域 |
研究実績の概要 |
グーシュ・エムニームは、1974 年に大イスラエル主義とメシアニズムを掲げて結成され、パレスチナ被占領地でユダヤ人入植地建設を進めてきた宗教的シオニストの入植運動である。その結成以降、占領地で入植地のネットワークを構築する一方、東エルサレムでの入植地拡大を進めるエルアド基金や第三神殿の再建を目指す運動等へと派生した。また、教育機関、軍、官公庁にも浸透し、イスラエルの政治・外交・経済・社会・文化の在り方に影響を与えてきた。本年度は、昨年度に引き続き、グーシュ・エムニーム台頭を支えた組織的・経済的・物質的・社会的基盤に関する分析を中心に考察を進めた。 結果、本年度は次のことを新たに発見することができた。すなわち、グーシュ・エムニーム登場の思想的・組織的・物質的基盤を提供した宗教的シオニズムは、確固たるイデオロギー的支柱を持った強固な組織ないしは下位共同体と見なされることがあるが、実際には、それが独自の組織として形成された当初から、相対的・状況対応的・多元的な性格を持っていたという点である。この宗教的シオニズムの性格に関する新たな発見は、イスラエル建国以降の宗教的シオニズムの基盤形成、及び、宗教的シオニズムとイスラエル政府やパレスチナ人との関係性を考察していく上で重要な分析枠組みを提供するものである。 本年度は、上記の発見について1つの研究発表を行った。また、その成果を論文として学術雑誌『ユダヤ・イスラエル研究』に投稿した。この投稿論文は2020年5月現在、査読審査中である。合わせて、2020年1月に刊行された『現代地政学事典』(現代地政学事典編集委員会編、丸善出版)の2項目、「宗教と地政学」と「パレスチナ/イスラエル問題の地政学的意味」を執筆し、宗教と地政学の関係性について論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
資料を分析していく中で新たな発見があった一方で、資料の分析に予定よりも時間を要した。そのため、イスラエル建国以降に宗教的シオニズムの物質的基盤がどのように拡大され強化されていったかについての分析には到達しなかった。 また、イスラエルでの現地調査について、イスラエル滞在中に、新型コロナウイルスへの対策としてイスラエル政府が日本からの入国者の入国を禁じ、既に入国している外国人等の旅行者に対しても自宅待機または特定施設への隔離を命じる可能性が高まり、在イスラエル日本大使館より緊急出国勧告が出た。そのため、急遽日本に帰国せざるを得なくなった。この事前に予想し得なかった事態により、滞在期間が15日間から4日間に短縮され、計画の見直しと繰越しが避けられなくなった。 しかし、現在も続く宗教的シオニストによる入植活動の構造的基盤を明らかにするためには、そうした基盤の起源と形成過程を詳細かつ正確に明らかにすることが必要不可欠である。ゆえに、本年度に新たに発見したことは、今後の研究の発展にとって重要な意味を持つものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に新たに発見したことを踏まえ、以下の2つの問題設定を行い、それに基づき資料の収集と分析を行う。 第1に、宗教的シオニズムの組織的起源であるハ・ミズラヒーの中核メンバーは、第1次世界大戦前のロシアとリトアニアで生まれ育った者達だった。他方、パレスチナ移住後にハ・ミズラヒーの方針や活動内容に不満をもった宗教的な労働者達がハ・ポエル・ハ・ミズラヒーという独自組織を結成し、宗教的シオニズムの物質的基盤を形成していったが、その中核メンバーは第1次世界大戦後のポーランドからパレスチナに移住した者達であった。第1の疑問は、第1次世界大戦前のロシア・リトアニアと第1世界大戦後のポーランドという歴史的・地理的文脈の違いが、宗教的シオニズムの相対的・多元的・状況応答的性格やその物質的・思想的基盤の形成にいかなる影響を与えたかという点である。 そして第2の疑問は、ハ・ミズラヒーとハ・ポエル・ハ・ミズラヒーの対立を含んだ関係性、及び、ハ・ミズラヒーが政敵としていた文化的シオニズムや社会主義シオニズムの動きが、宗教的シオニズムの相対的・多元的・状況応答的性格及び構造的・思想的基盤の形成にどのような影響を与えたかという点である。 宗教的シオニズムに関する先行研究は、以上2つの疑問点についてほとんど考察していない。よって、この問題設定は独自性を有する。そのため今後は、この2つの問題設定に沿って研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
イスラエル滞在中に、新型コロナウイルスへの対策としてイスラエル政府が日本からの入国者の入国を禁じ、既に入国している外国人等の旅行者に対しても14日間の自宅待機または特定施設への隔離を命じる可能性が高まり、在イスラエル日本大使館より緊急出国勧告が出たため、急遽日本に帰国した。この事前に予想し得なかった事態により、滞在期間が15日間から4日間に短縮され、計画の見直しと予算の繰越しが避けられなくなった。 次年度に新型コロナウイルスが終息し、海外渡航が可能になった場合は旅費に充てる予定だが、その可能性が低い場合は、資料収集費(物品費)と現地の研究協力者への謝金に充てる予定である。
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