グーシュ・エムニームは、1974 年に大イスラエル主義を掲げて結成され、占領地でのイスラエル人入植地建設に深く関与してきた宗教的シオニストの入植運動である。本年度も昨年度に引き続き、グーシュ・エムニームの台頭を支えた組織的・経済的・物質的・社会的基盤に関する研究を進めた。また、宗教的シオニストたちによる経済的・物質的・社会的基盤の形成を規定したパレスチナの社会経済構造を明らかにするため、パレスチナの社会経済史に関する先行研究の整理と検討を行った。 本年度の具体的成果としては、第1に、昨年度『ユダヤ・イスラエル研究』に投稿した論文が査読を通り、2021年3月に「宗教的シオニズムの構造的基盤に関する歴史的考察 ―ハ・ミズラヒとハ・ポエル・ハ・ミズラヒの多元的・状況対応的性格―」として刊行された。この論文では、宗教的なユダヤ教徒/人たちがシオニズム運動内で組織化されていく中で様々なイデオロギー、社会集団、利害関係が組織内に内包され、ハ・ミズラヒとハ・ポエル・ハ・ミズラヒという2つの宗教的シオニストの多元性が作られていった過程を明らかにした。 第2に、上記研究に関連して、単著『ナショナリズムの空間―イスラエルにおける死者の記念と表象―』を2021年3月に出版した。この単著では、ナショナリズムが、ネイション建設のための政治的手段として死者を記念した景観を形作り、国民意識を形成する点に焦点を当て、イスラエルにおける死者の記念の歴史的展開とその地理的様相を考察するとともに、宗教的シオニストの入植者たちによる死/死者の記念と表象の在り方を明らかにした。
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