最終年度に当たる2020年度は、新型コロナ感染症の拡大により、当初の研究実施計画の中で予定されていたケニアでのフィールドワークは行なえなかった。そのため、これまでの研究を総括し成果を交渉することにより注力をした。具体的には、環境保全とスポーツ人類学のそれぞれの分野に関する文献レビューを進め、環境NGOがケニア南部アンボセリ地域で開催しているスポーツイベントで、本研究の主たる対象であるマサイ・オリンピックがいかなる点で新自由主義的保全の側面を備えているのかを分析するとともに、そこにおいてマサイ・オリンピックが「オリンピック」を名乗っていることの意味を、スポーツ人類学における「メガ・イベント」の議論を参照することで新たに分析もした。こうした分析結果は学会やシンポジウムにおける研究発表や講演の中でも取り上げ、様々な分野の研究者との間で議論も交わした。マサイ・オリンピックは数多くのグローバル・メディアによって取り上げられているが、地元住民の考えや対応も含めて現場の実態は、これまでまったくといっていいほどに明らかにされてこなかった。そうした実態を明らかにした上で、近年ますます学術的な議論も盛り上がりを見せている新自由主義的保全やスポーツ開発の知見を用いて分析を行なっている点は、本研究の大きな意義であると考える。また、2020年度に行なったこととして、英文論集の編集作業もある。新型コロナ感染症の影響で予定より刊行時期が遅れているが、2021年の夏には出版される予定である。その中では本研究の成果も公表されているが、編者として他の日本人およびアフリカ人の研究者の調査結果に基づき、今日のアフリカの環境保全・自然資源管理の特徴を分析もした。これは日本とアフリカの知的交流の成果でもあり、大きな意義を有すると考える。
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