本年度はオンラインでの研究活動とこれまでの研究成果のまとめを中心とする研究活動を行った。 まず前者について、数回のオンライン研究ワークショップを開催することができた。こうしたワークショップにおいて本研究のテーマに関して日本の台湾研究者および台湾現地の研究者と意見交換、情報交換を行い、本研究に関連する専門的知見を補うことができた。また、こうしたワークショップの開催を通して本研究の研究成果を日本および台湾現地に伝えることができた。こうしたワークショップ上での研究者との議論や、その前後の理論研究・資料研究を通して本研究の研究成果の検証を行うことができた。以上の研究活動やその後の研究成果の総括を通して、エスニシティに関わる国家制度の一元化と多元性についての理論的考察を深めることができたことも大きな収獲であった。 本研究は台湾の先住民族、台湾原住民の事例を通して、エスニシティに関する制度的アプローチからの研究を進めて、多文化時代の社会理解・分析に貢献することを目指して始められた。本研究において多文化時代のエスニシティに関して身分登録書類に焦点を絞って研究を進めることで、現在の台湾における制度のあり方に影響を与えた制度的多元状況について実証的研究を進めることが重要であることが明らかになった。近代国家は身分登録書類などを用いて統治対象地域社会を可視化することを通して社会に関する情報を全数的に掌握し、さらにその地域の制度的一元化を貫徹することを目指した。上記の制度的多元状況、あるいはそれと対応するエスニシティに関わるカテゴリー設定は、いわばその一元化が生み出したものであるとも言える。また、そうして生み出された多様性に関する記述、およびそのデータの継続的保存が、多文化時代を支える制度の構築にとって重要なデータとなった。
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