2020年度に引き続き、2021年度は、新型コロナウィルス感染症の流行により、参加を予定していた学会が規模を縮小してオンライン開催になったり現地調査ができなかったりしたが、代わりにこれまで滞りがちであった執筆に集中することができた。 2020年度中に執筆した原稿「コプト正教会の典礼音楽」、橋本雄一、山口裕之(編)『地球の音楽』、東京外国語大学出版会、152-156、2022年が刊行された。ほかにも、エジプトにおけるクリスマスについて、事典の項目(未刊行)を執筆した。 これらの原稿および既刊のコプト正教会の修道院制および断食の習慣についての論説など、現代のコプト正教徒の宗教実践について執筆する機会が増えた。それらを通して、日本ではあまり知られていないコプト正教会およびその信徒たちについての詳細な情報が提供できた。ともすれば5世紀に異端としてキリスト教の歴史から姿を消したと考えられてしまいがちな集団であり、また仮に注目されるとしても「中東のキリスト教徒」という枠組みで他の教会の信徒たちと区別なく扱われがちな集団であることから、現在のコプト正教徒の姿を紹介できたことには一定の意義があると思われる。 また、本研究はコプト正教徒という宗教集団とエジプトという国民国家(ないしはエジプトのナショナリズム)との関係を考察することを主眼とするものであるが、宗教集団としての側面に焦点を当てることにより、コプト正教徒の文化的独自性を示すことができたと思われる。それにより、独自な文化を持ちながらも、同時にエジプト人意識を抱いているという、コプト正教徒たちのアイデンティティの複雑な様相を浮き彫りにすることができたものと思われる。
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