研究課題/領域番号 |
17K13295
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
松村 智雄 法政大学, 人間環境学部, 講師 (30726675)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 増田コレクション / シティズンシップ / 兵役 / 国籍 / インドネシア / 国民議会議事録 |
研究実績の概要 |
本研究は、1950年代というインドネシア国家形成期の政治史の探究を行うものである。この時期、インドネシアは自前の国民国家を形成していく過渡期にあった。その過程でひときわ問題になったのは国内の中国系住民に対する処遇であった。中国とオランダへの両属の状態にあった中国系住民をどのように国家として包摂あるいは排除するかという問題は、インドネシアという国家の構成枠組みを理解する上で重要である。 平成29年8月までは、早稲田大学国際学術院(アジア太平洋研究科)を受入機関とした特別研究員という身分であったため、「増田コレクション」を利用して研究を進めた。特別研究員として研究に専念できたことで、コレクションの全体像を理解することができた。 主に「増田コレクション」に収められている1950年代のインドネシア政治における華人の位置についての資料(1950年代のインドネシア国民議会議事録)を閲覧した。 本調査を通じて、インドネシア華人の中国への移動を促したインドネシア側の政治経済要因に関連して、当時の華人社会が置かれていた状況について明らかにした。例えば、これまで1950年代のインドネシアの兵役と国籍問題との関連、そしてこれに対する華人の反応といったテーマに正面から取り組んだ研究は存在しないが、しかし、1958年から翌年にかけて、国民議会で幾度にもわたりこのテーマが議論されているのは、まさにこれが国家のシティズンシップ原理にとって重要だからであり、さらに追究が必要なテーマであると考えている。 また、1960年代初頭の華人の中国への大量移動の引き金になったと言われる「1959年大統領令10号」についても具体的なデータを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年9月より現職の法政大学に異動したが、それ以前の学術振興会特別研究員(受入機関は早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)の時期には、アクセスが比較的容易であったため、機関が所蔵する「増田コレクション」という貴重な資料を利用することに専念した。当該資料の全体像を把握するとともに、その中でも研究課題に関連する部分について閲覧し、分析を行った。分析はすべて終了したというわけではないが、データは入手でき、利用可能な状態にある。 また、研究実施計画にある当該テーマに関するオーラルヒストリー研究については、平成30年3月のジャカルタにおける初期調査を行った。これは、1950年代の政治状況を身を以て経験した人々、当時から政治意識が高く政治活動に参加していた当時の活動家および華人知識人へのオーラルヒストリー調査である。こちらは、ラポール形成に時間を要するが、今後、オーラルヒストリーの部分でも研究を推進できる準備をほぼ整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
「増田コレクション」を利用した調査については、何が明らかになったのか明確にするために論文を発表する。特に、研究実施計画にある、インドネシアのシティズンシップ原則を一応明確な形で示したと言える「1958年国籍法」制定過程についてである。1954年には最初の草案ができていたにもかかわらず、国籍法が制定されていたのは、1958年(施行は1960年)であった。このように時間がかかったのは、その間に様々な立場の立法に関わる人々の間で華人のポジションについて議論が紛糾したからと言われてきているが、ではどのように「紛糾したのか」、「どのような議論がなされていたのか」がこの論文の主題となるであろう。 また、29年度末に開始したインドネシアにおけるオーラルヒストリー研究も、これまでのラポール形成を元に、本テーマに即したインタビューによる情報収集を進めて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度は、妻の出産、育児、法政大学への転勤等、さまざまな要因により、準備していた海外渡航が必要な調査が予定通りには実行できなかった。そのため、この分の研究資金は次年度に繰り越すことになった。次年度は、インドネシアならびに、研究実施計画に記載した通り、香港、台湾での調査に資金を利用する。
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