研究課題/領域番号 |
17K13307
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森本 慶太 大阪大学, 文学研究科, 助教 (20712748)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ソーシャル・ツーリズム / スイス / ツーリズム / 観光学 / 科学的観光論 / 大衆化 / マス・ツーリズム |
研究実績の概要 |
本年度は、1940年代にスイスで政策的課題へ浮上した余暇の普及が、戦後の「万人のための余暇」を理念とするソーシャル・ツーリズムへ接続していく要因について、一次史料に基づいて実施した。当初は、2017年の休暇中にスイスでの現地調査を実施する予定であったが、本務校での業務多忙により断念し、それにともない研究内容を調整した。具体的には、これまでに収集済みの史料をもとに、①1939年の余暇団体スイス旅行公庫協同組合(以下、Reka)の設立から1940年代前半にかけての位置づけの検討、②同時期に研究・教育面での制度化が進んだ「科学的観光論」(以下、観光論)の特徴という2点について、重点的に取り組んだ。 ①の研究では、Rekaの設立を主導したスイス観光連盟の幹部の著作をもとに、戦時中にRekaの事業が継続された政治的・社会的背景を検討した。その過程で、戦時中と戦後を展望した国民の労働力確保を求める政治的動向に、Rekaが積極的に適応していたことが明らかとなった。②の研究では、同時期にベルン大学とザンクト・ガレン商科大学を中心に展開された観光論が、ソーシャル・ツーリズムの形成と密接にかかわっており、戦後の観光振興に向けた視野を戦時中より提起していたことを、自由な国際経済と大衆化という二つの論点から解明した。 研究成果として、①については2017年12月16日に國學院大學で開催されたスイス史研究会において報告を行ったほか、2018年2月3日にウィングス京都で開催された女性史総合研究会でのドイツ食文化史に関する報告に対し、スイス観光史の観点からコメントした。②については、研究成果の一端が2018年度の前半に刊行される『ゲシヒテ』(ドイツ現代史研究会)第11号に掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本務校での業務多忙により、予定していた史料調査を断念せざるを得なかったが、使用可能な史料をもとに新たな角度から研究を進めたことで、一定の研究成果を出すことができた。とくに本年度は、観光論の動向に目を向けたことで、当初より予定していた戦後へとつながるソーシャル・ツーリズムの位置づけや国際協力関係の解明に、一定の方向性を見出すことができたため、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で記した①の研究を投稿論文として発表するべく準備を進める。さらに二年目の計画内容にもとづき、戦後西欧、とくにスイスのソーシャル・ツーリズムの展開について調査・研究を行う。対象としては、Reka会長を務めたW. Hunzikerらスイス観光連盟関係者の1950年代以降の活動に注目すると同時に、ドイツやフランス等の事例との比較史的視点を導入することで、スイス型ソーシャル・ツーリズムの特質とその影響の程度を解明する。本研究には、さらなる一次史料の収集が必要となるため、スイス経済文書館やスイス社会文書館等での現地調査を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、本務校での業務多忙により、H29年度に予定していたスイスでの史料調査を実施しなかったため旅費に余剰が生じたことと、史料調査を前提としたアルバイトによる史料整理作業を実施できなかったため、人件費を使用しなかったことによる。H30年度は、スイス等での長期的な史料調査と収集した史料の整理作業を計画しており、H30年度分として請求した助成金と合わせ、旅費と人件費に充当する予定である。
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