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2018 年度 実施状況報告書

有料化する聖地:宗教空間の経済的ゾーニングと公共的管理に関する観光学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 17K13313
研究機関立教大学

研究代表者

門田 岳久  立教大学, 観光学部, 准教授 (90633529)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワード入場料 / ゾーニング / 拝観料 / 公共空間
研究実績の概要

本研究は聖地の公共空間化と経済的管理に関して、人類学的なアプローチを行う。聖地が観光地とみなされることで、在来の信仰形態や自然環境を保全する必要が生じ、行政や管理者による管理が図られているが、世俗的なルールに基づく空間統制は「聖」の体系をいかに変容させるのだろうか?また宗教的知識や儀礼といった宗教性と不可分な現代の開発行政は、政教分離という近代社会の原則をどのように担保しうるのだろうか?本研究はこうした問いをもとに、近年観光化の著しい沖縄県南部の聖地、久高島をフィールドに2年目にあたる2018年度の研究活動を行った。
久高島は琉球神話において琉球の文化的発祥の地に位置づけられ、近代に至るまで多くの宗教的儀礼が実施されてきた。他方で最盛期に六百人を超えた人口は漁業の衰退などとともに減少し、百名台前半にまで落ち込んでいる。開発行政は「神の島」イメージを喧伝し、その表象に沿った巡礼者的観光客が訪れている反面、祭祀組織は事実上崩壊し、儀礼の継続は困難になりつつある。本年度の研究実績においては、過疎化が進む中で行政やNPO団体などが聖域管理に関与する度合いが増し、過疎化と世俗化が不可分な状態で立ち現れている状況を明らかにした。
またこうした状況は、過疎化と聖地の観光化が進捗する日本の多くのエリアで共通する事項でもある。なぜなら従来型の祭祀組織が衰退する中では、管理料や入場料の徴収によって聖域の管理をせざるをえない場所が増えているためである。そこで研究代表者は長崎県五島における教会管理の事例と、沖縄県における御嶽管理の事例を比較することで、聖地の経済的管理の具体的な過程を詳細に把握するとともに、そこで発生した新たな「財」が地域社会に及ぼす正負の影響を比較検討した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は空間管理の手法としての入場料・入域料が地域の生業や経済活動にもたらした影響を調査、分析することを主眼とした。久高島および新潟県佐渡市にて実地調査を行い、聖地や街並みといったこれまで経済的利潤の資源となってこなかったものに財が発生し、それによってこれまで宗教性や日常性によって意味づけられていた空間が、経済的な利害の対象として新たに意味づけられつつあることが明らかとなった。こうした利害の発生は社会関係に対立軸の発生をはらむが、在来の社会組織が予め利害調整の役割を担うことで、対立が避けられていることも見えてきた。このように観光化によって空間に重層的な意味が発生していき、現実の社会関係や生業に影響を及ぼすプロセスを検討することは、前もって計画した2018年度の研究計画であるため、その調査データを得られたことはおおむね順調な進展といいうる根拠となる。

今後の研究の推進方策

概ね研究計画通りに進捗していることを踏まえ、今後の推進方策も基本的に当初の計画通り進めていく方針を採る。3年目にあたる2019年度は聖地の有料化が信仰・民俗などの価値体系に及ぼした影響評価を行う。2018年度までに、聖域の空間管理と地域・開発行政との関わりを見てきたが、2019年度は聖地の観光化が生活意識や感情にもたらす影響について考察を深める。他方、文献研究では、空間のゾーニングと管理統制に関する地理学・社会学の論文を精査し、新自由主義的な空間管理が住民間の対立や分断を招く構造の分析が、本研究の事例分析においてどのように応用できるか探ることで、最終成果の結実に向けて土台作りを本格化させる。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 宗教空間の経済的管理に関する基礎研究:聖地における料金徴収の民族誌的データから2019

    • 著者名/発表者名
      門田岳久・石野隆美
    • 雑誌名

      立教大学観光学部紀要

      巻: 21 ページ: 19-36

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 久高島における巡礼ツーリストとヴァナキュラーな宗教性(パネル発表・現代世界における「宗教性」の変容)2019

    • 著者名/発表者名
      門田岳久
    • 雑誌名

      宗教研究

      巻: 92 ページ: 90-91

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 久高島における巡礼ツーリストとヴァナキュラーな宗教性2018

    • 著者名/発表者名
      門田岳久
    • 学会等名
      日本宗教学会第77回学術大会
  • [学会発表] 神々の過疎化:『久高島総合計画』にみる聖地と行政支援のゆくえ2018

    • 著者名/発表者名
      門田岳久
    • 学会等名
      宗教とツーリズム研究会
  • [図書] Themen und Tendenzen der deutschen und japanischen Volkskunde im Austausch2018

    • 著者名/発表者名
      Kadota Takehisa, Johannes Moser, Shimamua Takanori, Silke Goettsch-Elten, Nakao Katsumi, Oguma Makoto, Suga Yutaka, Markus Tauschek, Matsuo Koichi, Yoshitani Hiroya, Kawamatsu Akari, Koizumi Yurika, Tanioka Yuka, Masaoka Nobuhiro, Reinhard Johler, Jan Hinrichsen, Sandro Ratt, Okada Hiroki, Walter Leimgruber
    • 総ページ数
      416
    • 出版者
      WAXMANN
    • ISBN
      9783830936923

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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