研究課題/領域番号 |
17K13314
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
八幡 さくら 東京大学, 教養学部, 特任助教 (80773556)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | シェリング / 風景画 / 美術館 / アカデミー / 造形芸術 / コッホ / 芸術 / 自然 |
研究実績の概要 |
今年度は、シェリングが芸術哲学を論じる上でその議論に重要な影響を与えたと考えられる、同時代18~19世紀の芸術論と絵画作品の制作・展示状況に関して調査を進めた。 ドイツ国内外の美術館の成立史と展示状況に関して調査を行い、とくにミュンヘンのアルテ・ピナコテークとバイエルン王立造形芸術アカデミーに関する資料を調査し、シェリングの絵画作品の事例研究を行った。加えて、シェリングによる造形芸術アカデミーでの講演と批評活動、規約草案を比較し、シェリングが芸術哲学の理論をいかに発展させ、芸術家の養成について論じるに至ったかを論証した。 今年度の主な研究成果は、論文投稿2件(北アメリカシェリング協会誌『Kabiri』第2号、EAA Booklet)、国際会議での発表1件、国内会議での研究発表2件(招待1件)、書評1件である。2019年9月には東京大学東アジア藝文書院での国際フォーラムにおいて、シェリング芸術哲学の神話論について、芸術作品における神話の表象を取り上げながら論じた。同年10月ミュンヘンで開催された、国際シェリング協会とシェリング・コミッション共催の、シェリング芸術哲学に関する国際会議では、シェリングによる芸術に関する哲学的議論(講義『芸術の哲学』、講演『造形芸術の自然に対する関係について』)と、シェリングの造形芸術アカデミーでの活動との関連について報告した。その中で、シェリングが芸術ジャンルの中で風景画を重視し、風景画家コッホにドイツにおける風景画の理想を見出していることと、芸術教育が社会・共同体の形成と深く結びついていることを明示した。同年12月には神戸大学においてシェリングの世界精神の概念について発表を行った。こうした国際会議への参加・発表を通して、ドイツを中心にアメリカやフランスなど国内外の研究者と最新の研究情報の交換と議論を行い、研究者ネットワークを構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内外の会議や研究会への参加・発表を通して、シェリングおよびドイツ観念論研究者、さらに美術史研究者と情報交換し、研究者ネットワークを形成している。このネットワークにより、シェリングや同時代の芸術に関する研究の最新情報を手に入れることができている。とりわけ国際シェリング協会の会員やシェリング・コミッションの研究員から、一次・二次文献の情報、研究会の企画・開催、研究者紹介などについて早期に連絡を受けることができ、それにより資料調査の期間や場所の設定、研究発表の申し込みなどを迅速に進めることができている。こうしたネットワークの構築によって、さらに日本におけるシェリング研究が国際的に周知される機会が増え、今後の共同研究への可能性が生まれている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに収集した資料の整理・読解を継続するとともに、シェリング芸術哲学における風景論と芸術実践活動の同時代の思想的・美術史的立場を検証するため、カント美学やロマン主義の風景論と比較を行う。そのために、シェリング芸術哲学およびカント美学、ロマン主義、近代美術史の専門家と情報交換を行い、シェリングの雰囲気(気分)概念および風景画論の特徴を明確化する。 シェリング芸術哲学の実際の芸術作品への応用可能性を検証するため、彼が1807年以降のミュンヘン時代に行った芸術批評や執筆活動、造形芸術アカデミーでの役割を、同時代の新聞や批評、日記、書簡等から調査する。 これらの研究成果を国内外の学会等で発表し、論文として学会誌への投稿を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度までの科研費の使用実績から見て、国内外の学会発表における旅費の使用分が多く、今年度も学会発表を行う予定なので、その際の旅費の一部に加算する。
|