最終年度は前年に引き続き、これまでに得られた研究成果の公開を進めた。新型コロナウィルスの影響で延期していたワークショップ「共感と理解」をオンラインで開催した。そこでは、共感の道徳的意義に関するポール・ブルームの懐疑的な議論を現象学的倫理学の立場から検討し、共感と非人間化(dehumanization)の関係について考察する内容の口頭発表を行った。発表内容について、ワークショップに参加した現象学、分析哲学、フェミニスト哲学等を専門とする研究者と議論し、考察を深めた。 研究期間全体を通して、共感を基盤とする現代倫理学の諸理論を現象学の観点から検討しつつ、関連する諸概念(愛、尊厳の尊重、非人間化など)と共感との関係を明確化することに取り組んだ。英米哲学やフランス哲学などを背景として共感に関連するテーマに取り組んでいるさまざまな研究者と協力しながら研究を進め、倫理学において共感に中心的な役割を与えることの問題点を整理することができた。また、共感と呼ばれる現象にはさまざまなものが含まれており、それらを区別し、それらの間の基づけ関係を理解することが倫理学上の問題の解決にとっても重要であること、そうした作業にとって現象学的アプローチが有効であることを確認した。今後は現象学的倫理学の観点から差別や非人間化などのテーマに取り組んでいきたいと考えているが、本研究を通じてそのための基礎を固めることができた。
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