従来の現象学研究は共感(感情移入)を他者経験の現象学という文脈の中で扱ってきたが、本研究は共感概念の倫理学上の役割を現象学の観点から考察することにより、現象学研究の新たな方向性を見出すとともに、現象学と現代倫理学の新たな接点を示すものである。現象学的倫理学の立場から例えば差別や非人間化といったテーマに取り組む際の基礎を提供しうるという点でも、本研究の学術的意義は大きい。また、差別や戦争などの問題に関して、共感が重要だということが一般によく言われるが、共感とは何であり、共感が世界をよりよくするとすればどのようにしてか、といったことを問い直す際の手がかりを提供しうる点で、社会的意義を有する。
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