研究課題/領域番号 |
17K13316
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
峯島 宏次 お茶の水女子大学, シミュレーション科学・生命情報学教育研究センター, 特任准教授 (80725739)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 形式意味論 / 計算言語学 / 含意関係認識 / 自然言語推論 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代論理学における証明論と図形推論の手法を用いて、より自然言語の構造に即した形で自然言語推論を分析するための論理的枠組みを確立し、計算言語学における含意関係認識の研究にも寄与する証明体系を構築することを目的としている。 前年度までの研究では、範疇文法と型理論の枠組みのもとで、前提(presupposition)・照応(anaphora)を中心とする自然言語の文脈依存的な推論を扱う基盤となる合成的意味論と推論体系の整備を進めた。本年度は、この研究をさらに推し進め、前年度までに構築した証明論的枠組みのもとで、(1)いわゆるpaycheck anaphoraと呼ばれる複雑な照応現象、ならびに、(2)coercionと呼ばれる典型的には述語とその項のミスマッチにより生じる文脈依存的推論を扱うことを試み、それぞれ一定の成果を得た。さらに、複雑な量化表現、及び、比較表現・疑問表現を含む内包的表現を伴う推論現象にこのアプローチを拡張する研究を進めた。その成果は、次年度に公開する予定である。 また理論構築と並行して、前年度に引き続き、含意関係認識への応用を進めた。特に、組み合わせ範疇文法(CCG)に基づく構文解析器を用いることで、(1)日本語・英語の自然言語文を高階論理の論理式へと変換する合成的意味論、及び、(2)Coqなど依存型理論に基づく証明支援系を定理証明に応用することで、型理論の枠組みのもとで論理推論を行う推論システムの整備をそれぞれ進めた。さらに、このシステムに単語間・フレーズ間の語彙知識を利用したより柔軟な自然言語推論を行う機構を組み込むことを試み、実テキストに基づく含意関係認識タスクにおいて一定の成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標としていた型理論・高階論理を利用した自然言語意味論・推論体系の整備はほぼ順調に進展している。(1)前提とpaycheck anaphoraの型理論に基づく研究は "Paychecks, presupposition, and dependent types" と題する論文にまとめ、国際学会 (NLCS2018)において発表した。(2)coercionの証明論的分析は "Coercion as proof search in Dependent Type Semantics" と題する論文として国際雑誌 Oslo Studies in Language に投稿し掲載された。また、型理論・高階論理の意味論と推論体系を含意関係認識へと応用する研究は、組み合わせ範疇文法(CCG)の構文解析器の活用、単語間・フレーズ間の語彙知識を利用した推論システムの構築に進展があり、その成果は、計算言語学・人工知能の分野の主要な国際カンファレンス(NAACL2018, AAAI2019)にて発表された。本研究課題は、理論の基盤と応用の両面に関して順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に主に進めた型理論・高階論理に基づく意味論・推論体系とその含意関係認識への応用をさらに進める。本年度に進めた量化表現・比較表現・疑問表現の意味論的・証明論的分析については論文を準備中であり、国際学会での発表を計画している。また、さらに包括的な自然言語推論の論理体系を構築するために残された理論的課題の整理を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた学会参加・論文投稿及び図書購入に若干の変更があったため、次年度使用額が生じた。次年度の学会参加費・図書購入費の一部として使用する予定である。
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