本研究は、ハイデッガーとナチズムとの思想的なかかわりを、「黒ノート」に記された「メタポリティーク」という政治‐哲学的な構想の分析を軸に再検討した。主な研究成果は、以下の3点である。 (1)フライブルク大学総長の時期(1933-34年)のハイデッガーは、ナチズム革命を「哲学の再始源化」の好機と捉え、その遂行をメタポリティークと規定する。(2)とはいえメタポリティークには、ナチズムの人種主義に対する批判と、それに伴う人種概念の身体論的な考察が含まれる。(3)いわゆる「存在史的反ユダヤ主義」をめぐる問題の一端は、ハイデッガーの人種論に関する論点が整理されていないことに起因する。
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