研究課題/領域番号 |
17K13326
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研究機関 | 神戸市看護大学 |
研究代表者 |
藤木 篤 神戸市看護大学, 看護学部, 准教授 (80609248)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝子ドライブ / ジオエンジニアリング / 地球工学 / 共約不可能性 / 工学倫理 / 環境倫理学 |
研究実績の概要 |
助成期間二年目に当たる平成30年度は、初年度に得られた事例の調査内容をもとに、公衆優先原則と環境配慮義務の間において生じる価値相反の問題を分析した。分析に用いた事例は、昨年度に引き続き、「ゲノム編集技術の応用形態のひとつとしての遺伝子ドライブを用いた蚊媒介感染症対策および外来種対策)」 や、「地球温暖化対策の方策としての地球工学(ジオエンジニアリング)」である。前者は生物学を工学化するという点で、また後者は地球環境を工学的操作の対象化するという点で、本研究(「工学倫理における公衆優先原則と環境配慮義務の相反研究」)において重要な事例である。 分析の結果、評価者や解釈者によって、これらの技術を巡る際に用いられる語に対して、それぞれ異なる意味を見出しているという可能性が示唆された。例えば、遺伝子ドライブは農薬の使用量を劇的に減少させることができるという点で「環境に優しい environmentally-friendly」が、生態系に対して予測困難で致命的かつ不可逆的な影響を及ぼしかねないという点で「環境に優しい」とはいえない。通常、上記のような自然環境を大きく改変するような技術を評価する際、安全性や不可逆性といったリスク論的観点からの議論が不可欠である。しかしながら、議論を行う際の共通基盤となるべき、語の解釈や使用方法が異なる場合、公衆優先原則と環境配慮義務の間で生じる価値相反の調整にも、影響が及ぶ可能性が考えられる。科学史家トマス・クーンがかつて述べた「共約不可能性」が顕在化しているとも言えるようなこの状況は、決して好ましいものではない。最終年度は、「公衆の安全・衛生・福利」を構成する基本概念に対する、詳細な分類が必要になるように思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は、事例分析の調査結果と公衆衛生倫理学のサーベイ結果を摺り合わせ、統合することによって、「公衆優先原則と環境配慮義務の重み付けに影響を及ぼす状況や条件を明確化し、重み付け基準の草案を作成する」ことを目標のひとつに掲げていた。しかしながら、主に公衆衛生倫理学分野のサーベイ調査の面で、遅れが生じているために、目標は未達のままである。最終年度の早い段階で、早急に上記草案の作成に着手することで、進捗状況の遅れを取り戻す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の早い時期に、公衆優先原則と環境配慮義務の重み付けに影響を及ぼす状況や条件を明確化し、重み付け基準の草案を作成する。その後、これまでの研究成果を論文や書籍の一部といったかたちで発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会への参加が叶わなかったため、次年度使用額が生じた。今年度は、研究成果報告のための旅費に充当する予定である。
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