研究課題/領域番号 |
17K13327
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新居 洋子 東京大学, 東洋文化研究所, 特任助教 (10757280)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 在華イエズス会士 / ヨーロッパ中国学 / 中国人イエズス会士 / 新旧論争 / 東西交渉史 |
研究実績の概要 |
平成29年度は以下の2点を中心に研究を進めた。 (1)『北京の宣教師によるメモワール』(以下『メモワール』)全17巻の全体像の把握。この点についてはおもに第1巻(1776)の巻頭論文の分析に傾注した。これは中国人イエズス会士のコー(Ko)がフランス出身在華イエズス会士と協力して執筆したフランス語論文である。 コーは渡欧経験があり、中国では北京北堂でフランス出身在華イエズス会士たちと同居した。コーの中国帰還を端緒として、フランス政府と北京在住在華イエズス会士との文通が始まった。この文通によって送られた報告を編纂、公刊したのが『メモワール』である。 その記念すべき第1巻巻頭論文でコーが扱ったのは、中国古代史という当時のヨーロッパ知識人に広く共有されたテーマだった。彼が示したヨーロッパにおける古代世界探求熱と中国における古代史への関心との対比や、原文の翻訳を引用しながらの関連中国文献の概説には、中国古代史をめぐって過熱する議論に対し、中国知識人の立場から中国古代史観を示すという役割が求められていたことがうかがえる。のみならず、コーが中国経書を新旧論争の観点から評価した点には、ヨーロッパとの対比という新たな視点を獲得した中国人による自国観も示されている。 (2)『メモワール』のヨーロッパにおける流通状況の解明。この問題については、1793年に英国大使として中国を訪れ、在華イエズス会士最後の世代とも交流のあったマカートニー、および使節団員が残したさまざまな報告の分析に重点を置き、そこに『メモワール』の影響がどの程度見られるかを検討した。 以上のごとく研究を進めるにあたっては、関連史料をフランス国立図書館や東京大学東洋文化研究所など各機関で調査した。これらの研究の成果をもとに10月に単著を刊行したほか、論文を『東洋史研究』に投稿し、平成30年6月に刊行予定の同誌77-1号に掲載が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではとくに『メモワール』そのものの分析と、『メモワール』の流通の解明とに重点を置いている。この点からみると、平成29年度は海外での史料調査がフランス国立図書館にとどまり、とくにヨーロッパ知識人の蔵書カタログや書籍商のカタログの調査を現地で行うことができなかったため、『メモワール』の流通の解明に関してはまだ具体的な成果を出すにいたらなかった。そのおもな理由は、単著の出版にかかる作業に比較的多くの労力・経費を要したことにある。 しかしその一方で、『メモワール』にもっとも多くの報告が掲載された在華イエズス会士アミオについての論考をまとめ、単著という形で公刊できたこと、そして『メモワール』そのものの分析という点で欠かせない第1巻巻頭論文についても、投稿論文として成果を形にすることができたのは、当初の計画より進んだものといえる。 さらに『メモワール』の流通に関しても、マカートニー使節団という19世紀以降のヨーロッパにおける中国理解において大きな影響力をもつ出来事に着目し、『メモワール』にもっとも多くの報告が掲載された在華イエズス会士アミオとマカートニーとの直接の交流があったこと、そしてそれに関わる手稿史料が東洋文庫に蔵されていることを見出したのは、今後の研究に大きな手がかりを与える収穫となった。また欧米における中国研究の最有力誌のひとつであるMonumenta Sericaを創刊号から最新号までチェックし、そこに豊富に含まれた欧米の中国研究者や図書館の蔵書に関する研究をすべて洗い出した。これも『メモワール』の流通について解明する上で有効な手がかりを与え得る。 以上の理由によって、本研究は全体としておおむね順調に進展しているものと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は、まず『メモワール』の流通とそのヨーロッパ中国学に対する作用に重点を置く。そのために史料調査の範囲を拡大し、フランス以外の海外機関でも知識人の蔵書カタログや書籍商のカタログを中心に調査を進めるとともに、東洋文庫を中心にマカートニー使節の関連史料も調査し、『メモワール』の流通範囲や影響について分析する。調査を行う海外機関としては、マカートニー使節団をひとつの端緒として19世紀ヨーロッパにおける中国情報の集積地のひとつとなっていくイギリスにも注目し、大英図書館やオックスフォード大学ボドリアン図書館を中心に調査を行う。それと同時に、19世紀ヨーロッパで公刊された中国関連出版物のうち、代表的なものを選別して分析し、『メモワール』がもたらした中国情報の浸透などについて分析を行う。なお以上の分析において用いる18~19世紀ヨーロッパの出版物に関しては、フランス国立図書館が提供するGallicaや、Nineteenth Century Collections Online等のデジタルアーカイブも活用しながら効率的に調査を進めていく。 以上の研究を進める過程においては、随時関連する各分野の研究者らと意見交換を行うことによって、方向修正や研究法の多角化をはかっていく。この点に関しては、これまでに研究会や国際会議でのパネル企画を通して構築した国内外の研究交流ネットワークを利用するつもりである。 続く段階では『メモワール』に結実した在華イエズス会士の中国研究、およびその影響下に成立したヨーロッパ中国学を、日本や朝鮮における儒学と比較対照し、国際的な観点からみた『メモワール』の意義と独自性、また他地域における中国研究との連続性を明らかにする。この点については、日本思想や朝鮮思想を専門とする研究者との意見交換を通して検討を進めていく。 以上の研究成果を随時国際的な学術誌を中心に発表する。
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