研究課題/領域番号 |
17K13330
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
池田 恭哉 香川大学, 教育学部, 准教授 (50709235)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 北朝 / 漢化 / 隋朝 / 植民地政策 / 言語統治 / 北魏・孝文帝 / 王通『中説』 |
研究実績の概要 |
本年度は、「北朝の漢化について考える」という本研究の主目的を果たすための準備として、非漢民族が北朝においてどのように振る舞ったのかについての実例を、実際の正史や石刻史料を読み込むことで探していく作業に専ら意を置いた。その成果は着実に蓄積されつつある。 また近代社会の中で、植民地政策の一環として言語統治がどのように行われたかをめぐり、中国に限らない事例についての研究書を入手し、それらを読み進めている。北朝では非漢族が統治しながら、やはり漢語による統治を目指した面が大きいのであって、その理由を考察する上で、上記の研究は大いに参考になっている。 具体的な成果としては、まず牛弘という隋朝の学者を取り上げ、第二回アジア史連絡会の場で「隋における牛弘の位置」と題して口頭発表した。隋という王朝は、北朝を多分に継承しており、そこでの文化の保全の様相が、北朝での漢文化と異民族文化の相剋の結果として見ることができるとの見通しから、隋朝の様々な文化政策に携わった牛弘の事績をたどった内容である。これについては、個人の事績と王朝の政策との間の関係性をより深く追究し、そこから北朝文化のあり方へも遡っていけるよう、さらに考察していきたい。 同じ隋朝の学者ということでは、連載中の王通『中説』の訳注、その第四を『香川大学教育学部 研究報告 第Ⅰ部』第149号に掲載した。その中には北魏・孝文帝による漢化政策への(漢文化を失墜から守ったとの)評価も見え、そのことが持った隋朝での意義についても、訳注から考察を発展させていく必要があろう。 本年度は、総じて次年度以降の論考発表へ向けての準備段階の一年であったと言える。その意味では、必要な先行研究の消化と原典資料の収集は十分に行った一年であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗状況としては、やや遅れていると言わざるを得ない。すでに「研究時実績の概要」にも記したとおり、北朝の漢化について考えるための準備としては、先行研究に幅広く目を配り、それらを読み込むことはできている。また正史や石刻史料を改めて網羅的に読み返すことで、新たな北朝での漢化をめぐる事例として取り上げるべきものを発見してもいる。 研究の進捗状況は上述の通りであるが、成果として具体的な論考になったものが少ないとの印象は否めない。これは対象とする先行研究の幅を広げたために、却ってそれらを統括するための視点が散漫になってしまったことが、大きな理由として挙げられる。また北朝の漢化に関する事例も、単発的なものが多く、それらをどのような観点からまとめていったらよいかを、まだ十分に練り切れていない面がある。 以上のような事情から、研究の進捗はやや遅れていると判断した。今後は収集した情報を論考として発信することに全力を尽くしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、収集してきた情報の整理とまとめに時間を費やし、その論考としての発表を最優先の目標に研究を進めていきたい。 具体的には、第二回アジア史連絡会で口頭発表した牛弘に関する内容を、隋朝の文化政策の中に位置付ける形でまとめ、それを論考として発表する。その際には隋朝による北朝の継承という側面にも十分に留意したい。 また王通『中説』の訳注稿も、第五として引き続き公表する。なおこれは、これまで勤務先の紀要に連載をしてきたが、所属の変更に伴い難しくなった。新たな連載先を模索することが課題である。 上記の二つは必須の取り組むべき事項である。さらに様々な統治における言語への政策について、多くの先行研究を踏まえて考察を深化させる。そのためには、やはり中国で非漢族が統治した元や清での統治の実態について検証し、それらと引き合わせることで新たな論点を絞っていくことにしたい。そうすることで、北朝の漢化が単なる北朝での出来事としてだけではなく、中国史全体の中で把握できるであろうと思われる。可能な限り学会での口頭発表を経て、新年度での論考としての成果の公表につなげたい。
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