研究課題/領域番号 |
17K13330
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 恭哉 京都大学, 文学研究科, 准教授 (50709235)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 北朝 / 漢化 / 牛弘 / 「請開献書之路表」 / 辛彦之 / 『隋書』 / 王通 / 『中説』 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に収集し検証に着手した諸史料を基礎に、多面的な考察を加え、複数本の論考を執筆した。具体的には、昨年度に口頭発表した隋朝の牛弘という人物に関する二本の論考である。以下にその概要を示す。 第一に「牛弘「請開献書之路表」訳注」(『香川大学国文研究』43号、2018年)。これは、隋朝の文化政策を主導した牛弘の最も大きな功績である「献書の路を開くを請うの表」に対して、訳注を施したものである。そこでは牛弘が、天下の書籍を広く収集することの提言を通じて、武力により北朝をまとめた隋・高祖に対し、文治への方針転換を迫ったことを明らかにした。漢籍という漢文化を代表する「モノ」が、北朝のこれまでの政治システムと対置された事実が浮き彫りになった。 第二に「隋朝における牛弘の位置」(『中国思想史研究』40号、2019年)。そこでは上述の第一の成果を基礎に、隋朝の文化政策を牛弘がどのように推進したのかについて、牛弘の様々な事績に即して考察した。牛弘は礼楽をただの古典として墨守するのではなく、実際の世の動きに対応する形で解釈していったのだが、その様子を一つ一つ指摘していった。 またやはり隋朝の、在野の学者の王通が著した『中説』について、連載中であった訳注を継続した。「王通『中説』訳注稿(五)」(『香川大学教育学部研究報告 第Ⅰ部』151号、2019年)がそれである。今後も連載を続け、王通の目から見た隋朝での北朝文化と南朝文化の交流の様相をたどっていきたい。 また新たな研究の構想も、展開を見せている。第38回六朝学術学会例会では、牛弘とともに活躍した辛彦之という人物の没年が、『隋書』の中で混乱している事象に着目し、「辛彦之の没年をめぐる一考察」と題して口頭発表した。『隋書』は北朝における漢化を検討する際の基礎資料であり、その性格を正しく認識することも、今後の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はやや遅れていた研究成果の発信が、今年度は具体的な論考として複数活字化できたことに加え、新たに全国規模の学会での口頭発表をしたことで、次年度への研究の発展が見込める状況にある。そのため「おおむね順調に進展している」と認識している。 ただ課題も残る。これまで一定数の研究成果を公表してきたが、いずれも漢化を推進する側の立場から、その推進の実際の取り組みと結果を論じたものであり、北朝の漢化を、その漢化を被る主体たる異民族がどう認識していたのか、そして漢化に対して抵抗を試みた面は見出せないのか、といった点については、まだ十分な議論ができていない。それらについては引き続き先行研究や史料にあたり、考察を深化させている途上にあるので、次年度のまとめに全力を傾注したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究課題の最終年度として、より強力に研究成果を発信することに意を用い、本研究課題をまとめていきたい。以下のような方策を考える。 まず必須事項としては、第一に連載の「王通『中説』訳注稿(六)」を発表することであり、第二は口頭発表した辛彦之の没年と『隋書』の編纂をめぐる問題に関する論考を発表することである。前者についてはすでに執筆に着手しているし、後者についても口頭発表の場にて得た意見を参考に、さらなる内容の充実を期して考察を進めている。今後も計画的にまとめ、活字化していく。 また北朝の異民族層が、漢化という問題にどういった意識で望んだのかについては、これまで史料を収集してきた「言語政策」といった側面から、検証していきたい。異民族層の多くは自らの文字を持たなかったと思われるが、その事実を漢籍の記録の中から抽出し、その中で自らの言語をどう保存しようとしたのかという点にも留意しながら、「言語」という自民族のアイデンティティーの確立にとって欠くべからざる概念を基軸に、「北朝の漢化」を再考していくことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に物品費での支出として、研究課題の遂行に必要な書籍の購入を想定していたが、今年度はそうした書籍がやや少なかった。次年度は今年度と同程度の物品費、旅費の他、国際会議への参加費や、その外国語論文の校正の謝金について、支出を見込んでいる。
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