元来の計画では,本研究課題は昨年度終了する予定であったが,新型コロナウイルス感染症の流行にともなう研究遂行上の必要から,一年間延長した。 『尚書』学を含む経学が近代以降にどのように転換・展開し,特に史学との関係はいかなるものであったか,が本研究課題の大きな問題の一つであった。本年度は,本研究課題の構想の出発点であるとともに,清代からの学術の展開の後に登場した顧頡剛(1893-1980)の,早年の読書筆記を分析することで,顧が清末民初の読書環境の中で,経学を中心とする学問と書物の体系から,章学誠・章学誠の目録・平議(批判評論)の学や哲学を経由しながら史学へ進むに至った過程を跡づけ,その成果を論文として執筆した(現在査読中)。本論文により,清代以来の学術が近代の学術にどのように展開したのかという,本研究課題の主要な問題関心について,一定の成果を得ることができたと思われる。 本年度の研究,および研究期間全体を通じて実施した研究により,次の成果が得られた。(1)清代の『尚書』学という,従来経学の一部としても先行研究の少ない領域に対する研究を進めることができた。(2)『尚書』学を通して,清代から近代への学術展開過程を,今文学・古文学の関係,経学と史学の関係,といった問題を軸として,再考することができた。(3)(2)は,従来中国哲学(史)において区別して研究されてきた,前近代と近代以降の学術を,連続させて論じる道筋となるものでもあった。この(1)(2)(3)は,本研究実施者の今後の研究の基盤となるとともに,中国哲学・思想史研究の方法論としても意義・重要性を持つものと考えている。 本研究の研究期間を通じて,いまだ発表に至っていない成果については,今後も整理と発表を継続して行う。
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