上座部註釈家のうちダンマパーラ、アーナンダ、ウパセーナの年代論について考察した。 結論として、①『無礙解道註』を著したマハーナーマは、その跋文と『小史』の記述に基づけば、六世紀初めの人物であり、『無礙解道註』の成立はモッガラーナ一世の没後第三年の514 年と考えられる。②『義釈註』を著したウパセーナは、その跋文と『小史』の記述に基づけば、九世紀後半の人物であり、『義釈註』の成立はセーナ二世の在位第二十六年、すなわち878 年と考えられる。③〈阿毘達磨復註〉を著したアーナンダは、『法集論復註』跋文と『小史』の記述に基づけば、十世紀後半の人物である。④『導論註』、〈阿毘達磨複々註〉、〈小部註〉、『清浄道論註』、〈ニカーヤ複註〉の五つを著したダンマパーラは、『清浄道論註』跋文と『小史』の記述に基づけば、十世紀後半の人物である。以上の四点を結論した。 また、ダンマパーラ著作の「中有」にかんする記述のうちに、『倶舎論』からの引用を多数確認した。この発見は南北仏教の思想的連絡があったことを示す重要な手がかりになると思われる。
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