研究課題/領域番号 |
17K13336
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澤井 真 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (40773734)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イスラーム神秘思想 / 生と死 / スーフィズム / イブン・アラビー / 人間 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
平成30年度においては、生と死の体験の主体である“人間”を中心に考察をおこなった。アッラー(神)に対応する人間は、神と対置されるなかで、ともすれば一元的に論じられる。しかしながら、イスラームにおいて、人間は預言者と市井の人々、男と女、さらに選良と一般の民のように、さまざまに区別される。平成29年度の報告で取り上げたイブン・アラビーのイエス論について考察するなかで、イエスという“人間”について分析することなく、イスラームの死生観を理解することができないことが明らかになった。 そこで、論文「男/女の解消:スーフィーの人間観」では、イスラームにおけるジェンダー論者たちがスーフィーのテクストをいかに読んできたのかについて系譜的に分析した。ジェンダーに関心を抱く論者たちは、スーフィズムにおけるイスラーム学研究を参照するかたちで進めてきた。アッタールによるラービア・アダウィーヤにおける聖者列伝の記述や、イブン・アラビーの著作では、神の前における男女の平等が論じられている。自我や名誉、そして財産などの名声を捨て去ることによって、神との一体化を目指す神秘家たちにとって、男や女という性別は意味を成さない。さらに、男性も女性もともに神へ向かう一個人であるという意味で、イブン・アラビーは、女性もスーフィーたち頂点に立つ「枢軸」になりうることを述べている。サアディーヤ・シャイフのようなジェンダー平等を推進しようとする者たちは、このようなスーフィーたちの議論を援用しながら、自らの主張を正当化する議論を展開した。 さらに、生と死に関する文献学的調査の一端として、エジプトのカイロ市内の図書館情報を『、世界の図書館から』のなかで提示した。 また国内外での研究発表のなかで、人間に対する分析とともに、人間が経る生と死についての捉え方を創造論との関わりの中から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度はこのような人間理解に焦点を当てて考察したことで、スーフィーの位置を思想レベルから掘り下げて明らかにすることができた。 業績の観点では、論文1本、共著論文1本、国際学会での口頭発表1本、国内学会や研究会での口頭発表5本となっている。そのほかに、トルコで発行予定の共著作のなかで、収録予定の生と死に関する英語論文を既送している。そのため、「おおむね順調に進展している」に区分した。
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今後の研究の推進方策 |
生と死についての理解は、イスラームの聖典クルアーンにおける描写や語彙が基礎となっているけれども、その理解や思想的展開は思想家によって異なっている。言い換えれば、神への捉え方についての考察ばかりでなく、人間理解(人間とはいかなる存在か)、預言者らをはじめとする特別視される人間、さらに男女の差異などの背景を考えることによって、生と死についての議論を掘り下げて理解することが可能となる。 そこで最終年度は、国内で人間理解に基づいた生と死に関するシンポジウムを、2020年3月でイランで開催される国際学会において、「The Views of Life and Death in Islam and Their Phenomena」としてパネル発表を予定している。 さらに、存在一性論として知られているイブン・アラビー学派における学者たちの著作を通して、彼らが用いたさまざまな死(小復活や大復活など)を考察する。それによって、スーフィーたちによって得られる新しい地平の生と死の諸相を描くことが可能となるであろう。この研究成果はTenri Journal of Religionに英語論文へ投稿する予定であり、これ以外の研究成果についても、日本語論文として世に問う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度(平成31年度)にイランでの国際会議に出席予定のため、平成30年度の研究費の一部を繰り越した。
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