本研究は、日本・フランスという二カ国におけるいわゆる〈美食〉文化形成の歴史的過程について比較検討することを目的として開始した。二国間の文化比較を、直接的影響関係の有無に限定せず柔軟に行おうとする点がこの研究の挑戦的な課題でもある。本年は、それぞれの側面について、以下の考察を行った。 本年度は日本・フランスが直接的な接触を持ち始めたごく初期において、相互の食文化についてどのような印象を抱いたかについて検討すべく、資料を収集した。とりわけ、日本人が西洋(特にフランス)に対して抱いた感情・印象についてはすでに多くの研究で言及されているが、逆(フランス人が日本の食について抱いた印象)に関する歴史的資料は散逸的で、研究としてはまとめられていない。本研究ではこれらについて文献調査をし、一定の資料を得た。だが未だ論文としては形になっていないため、今後の課題としたい。 また、両国が接触以前にそれぞれの文化の内側で育んだいわゆる〈美食〉の感性についても、昨年度に続き考察を続けている。いずれにおいても料理書をこえる領域において美食の言説が発展したことを、両者に共通した点として注目してきたが、本年はさらにこれについてその背景について考えようと試みた。すなわち、いずれの文化圏においても18世紀後半には文人らのネットワークがかなり充実したものとして発展しており、ここでの文人ら同士の交流が、趣味的であれ深みのある食の言説を産むことに寄与したと考えられるとの結論を得た。
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