本研究では、近年再発見された茨城県桜川市楽法寺金剛力士立像(制作年代:鎌倉時代)のうち吽形像(以下本像)を対象としての2分の1縮尺模刻研究を実施した。その結果、本像の像上面に見受けられる接合面に向かって放射状に発生している干割れ(乾燥と収縮に伴う木材の割裂現象)が、従来想定されていた木彫制作の工程(製材→粗彫り→内刳り→中彫り・小造り・仕上げ)では、木芯を含んだヒノキ材による本像の構造再現が難しいことが予想された。よって本研究代表者は、原本像の構造を模刻において再現する上で、立木状態から伐倒して未乾燥状態のヒノキ材の丸太を打ち割り製材し、その直後に既得の3Dデータから作成した輪郭線を図面として用いて内刳り(木彫像の内部を空洞に削り取った構造)を施したのち、粗彫り以降の制作工程を進めた。すると、模刻像にも原本像とよく似た干割れが発生した。 最終年度である本年は、前述の吽形像の2分の1縮尺模刻制作を昨年度に引き続き実施し、これを完成させたが、前述の模刻像に発生した干割れの様相は、その後も大きく変化することなく、彫刻作業を阻害するような干割れとはならず原本像に類似したまま安定した状態となった。以上のことから、本像に想定された制作工程は、ヒノキの原木から彫り出すような一木割割矧造りにおいてでさえ、寄木造りの時に使用が想定されるような正確な図面を活用させた制作工程を経た可能性が高いことが示された。さらに、原本像の阿形・吽形の両像には「刳り破り」(彫りこみが内刳りにまで達して穴が開いてしまう現象)が両像ともに同様の正面股下の位置で認められた。これは形を彫り出す前の製材直後に内刳りを深く施したために、その後彫刻を進めた際に誤って刳り破りが生じたと想像される。よって本研究で想定した制作工程が原本像でも行われた可能性を傍証するものと思われる。
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